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44 高知論叢 第92号生産条件の排他的所有によってなりたつ特有な生産関係だという命題が成立する。ところが,先行研究にあっては,剰余価値は,蓄積財源をつくりだす労働力のもつ特殊性からうまれるという考え方が....

44 高知論叢 第92号生産条件の排他的所有によってなりたつ特有な生産関係だという命題が成立する。ところが,先行研究にあっては,剰余価値は,蓄積財源をつくりだす労働力のもつ特殊性からうまれるという考え方が根強く定着している。それは,つぎの引用文にみられるとおりである。「労働力なる商品は,剰余価値を産み出すといふ一種の特徴を有して居る。その理由は,元来人間なるものは,自己の消費するよりも遙に余分のものを生産する力を有するからである。」(河上 肇 『近世経済思想史論』 岩波書店,1920年,270ページ)「労働力という商品は,一たび働きはじめると,労働という形で,それ自身を再生産するに必要な働き以上の働きをするという特性をもっている。」(クチンスキー『絶対的窮乏化理論』有斐閣,新川士郎訳,81ページ)「労働力は,他のどの商品ともちがって,自分自身の価値以上の価値を生産す4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4ることができる4 4 4 4 4 4 4 という点で特別なのだ。」(レオ・ヒューバーマン 『資本主義経済の歩み』[下]岩波新書,小林良正・雪山慶正訳,98ページ,圏点―ヒューバーマン)「労働力という商品は他の商品とちがって生きものであるから,実際に受けとった対価以上のものを生産することができる。」(高島善哉『アダム・スミス』岩波新書,1968年,172ページ)「労働力商品は, それの使用によって価値増殖をもたらしうるという特性をもっております。①」(?松 渉『今こそマルクスを読み返す』講談社現代新書,1990年,107ページ) 生産条件の排他的所有が剰余価値を規定する根拠であるかそれとも蓄積財源をうむ労働力の属性を根拠として剰余価値がうまれるかは,『資本論』研究にとって宇宙の幅ほどの差がある。けだし,前者と後者とでは,貨殖の秘密は,人と人とのあいだの社会的関係か人と生産物とのあいだの自然的関係かというまったく正反対の二つの契機にもとめられるからである。蓄積財源をうみだす労働力の特殊な属性に剰余価値の秘密をもとめることは, 剰余価値発生の究極の根拠が人による生産活動という自然的関係にあるということに帰着する。「労働力もまた,なによりもまず,人間有機体に転換された自然素材である。」