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88 高知論叢 第92号あってはならず,体験型観光プログラムならばなおさらである。特に農山漁村の日常生活から切り離して作り上げたプログラムの場合,軽く試算してみただけでも,動員されるスタッフの日当,再生産のための採算性を考慮したうえで,かつ全国的に金太郎飴のような「自然,食材メニュー,体験プログラムの産地間競争」が激化している中で利用客にとってリーズナブル,という料金設定はなかなか難しい47。 振り返れば高知県で本格的に都市農村交流に取り組む実践活動が始まったのは平成12年度であるから,実践者の方々は8年の時を重ねたことになる。「豊かな地域の実現」を支えるのは景気よく旗を振りいたずらに船出を急がせることではなく,地域と共に目指すべき港への舵を取る握力なのではないか,というのがその間多少なりとも行政として関わってきた筆者の忸怩たる思いである。民宿開業に至った方,今もイベントを続けている方,これからどう歩まれるのか,ただ皆さんの笑顔から推し量るしかない。 全国的に展開されている支援策や取り組みではあるが,見通しのない推進は,「いきがい」や「喜び」だけがご褒美の「社会活動」を農山漁村に強いることになりかねない。それだけではない,前述したようなコンプライアンス,観光の商業主義が求めるサービス水準,それらがもたらすネガティブな結果をひとえに実践者の方々が負うことにならないと誰がいえよう。 実践者自らがリスクマネジメントやダメージコントロールに主体的であらねばならないということも正論ではあるが,そういう議論の前に,「地域を愛し,訪れる人々を愛する」実践者の努力が報われる地域こそ,グリーン・ツーリズムのめざす「暮らし続けたい地域」「帰ってきたい地域」であるということを思い起こしてほしい。 この歩みで本当に良いのかという反省,予見可能性の備え,そして経済性の検証なしに,ただ「推進」という言葉の心地よさに身をゆだねてよいのか,グリーン・ツーリズムの認知に社会が動き始めた今こそ,考えを整理しなければなら47 青木辰司,小山善彦,バーナード・レイン( 2006) では,「 一番の問題はこうした体験主義はあくなき企画合戦と価格競争に陥り,観光事業と同様の身体的疲労を伴って,短期的事業に終わる宿命にあることが,認識されていないことにある」と指摘している。