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現代ドイツの地域間格差是正政策に関する一考察87で,一定の先端産業の集積が地域経済の成長の原動力になるということが期待されている。 東ドイツ地域における「産業クラスター」の存在についてのRosenfeld らの調....

現代ドイツの地域間格差是正政策に関する一考察87で,一定の先端産業の集積が地域経済の成長の原動力になるということが期待されている。 東ドイツ地域における「産業クラスター」の存在についてのRosenfeld らの調査によると,全体で42の「産業クラスター」の存在と,62の萌芽的な集積が見られるということである。30 しかし,42の「産業クラスター」のうち16がザクセン州,10がベルリン州にと,地域的な偏りがみられる。とりわけザクセン州は,62の萌芽的な集積と位置づけられているもののうち,30が存在しているように,「産業クラスター」の一大集積地となっている。東ドイツ地域の産業構造は,南部地域のほうが製造業の比率が高いことを本論文の第1章においてみたが,今後の発展の中心として期待される産業集積についても,南部地域に集中している状況がある。 「産業クラスター」形成支援政策は,中小企業育成策としての側面をもっており,地域内の経済循環と結びつく形で産業集積が発展していけば,今後の東ドイツ地域の経済発展にとって大きな可能性を秘めるものといえる。31 しかし,政策的な支援の対象となりうる「産業クラスター」が南部地域に集中している現状においては,むしろ東ドイツ地域の南北格差をより助長していくものとなる可能性がある。そもそも産業集積のないところに新しく「産業クラスター」を作り出そうという政策は一定の経済的条件がなければ持続性がないことから,改めて東ドイツ北部地域の経済発展をどう考えるか,という課題が浮き彫りになる。 そこで,旧東ドイツの人口密度が希薄な後進地域にとって,財政的な制約は30 Rosenfeld[2006],S. 498?500. 同調査では,「産業クラスター」という概念は内容が曖昧であるとして,「経済的な発展の中心地(Okonomischen Entwicklungskerne:OEK)」という概念を使っている。OEK の基準として,①地域における中核的な産業部門,②企業間ネットワーク,③イノベーティブな競争環境,の3 つの存在を挙げているが,調査の意図は東ドイツ地域における「産業クラスター」の有無に関する議論について,実証的に貢献するためであるということである。31 「産業クラスター」論の意義と課題については,植田[2004]を参照。同論文では,日本における産業クラスター政策をめぐって,政策支援の対象として産業集積に注目することは21 世紀の製造業を展望していく上で重要な視点であるとしつつも,一方で,クラスター概念の曖昧さ,産業集積内において支援対象を限定することになってしまうことなどについて問題提起している。