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104 高知論叢 第95号視し得ないと金谷氏は述べる。大阪では当時不況により大量の解雇者が生まれたが,そのかなりの部分は帰郷し,実質賃金の下落はみられずあまり打撃を受けなかった。しかし農村県である高知県では....

104 高知論叢 第95号視し得ないと金谷氏は述べる。大阪では当時不況により大量の解雇者が生まれたが,そのかなりの部分は帰郷し,実質賃金の下落はみられずあまり打撃を受けなかった。しかし農村県である高知県では,大量の労働者が大阪など大都市から帰郷してきて,そしてその中のかなりの部分は収入が少ない農業をする。農民が多い高知県では,景気不況による実質賃金の下落が激しかった。このような相対的過剰人口による人口移動が,この時期においては実質賃金の格差となって現れたことを金谷氏は解明された。本書の最も大きな功績はここにある。第3部 戦前の農家経営 金谷氏は一農家の農業記録から農家経済をとりまく日本経済をミクロレベルで実証的に明らかにした。金谷氏は大阪府和田市尾生町の森仁左ヱ門家に保管されている『農業日誌』によって,森家の経済生活の歴史を紹介し,戦前の地主兼自作農家の実態を明らかにした。『農業日誌』の期間は明治21(1888)年から昭和20(1945)年までの58年間であり,明治中期から敗戦までの戦前期である。森家は明治21年の時点において,村内ではかなり上層の農家であった。経営規模は,自作地面積が分家することによって一時的に縮小し,また兵役によって成人男子の労働者が失われ,自作地面積は縮小する。その後,小作地面積は徐々に拡大している。家族労働力の数が多い時期には小作地面積も大きかった。現金収入の変遷については,全般的には黒字の年がほとんどであって赤字の年は少なく比較的に安定している。 金谷氏は,森家の経済と景気変動,資本主義の発展,農業技術,戦争との関係を以下のように解明した。森家の経済と景気変動の関係については,森家の経済は景気変動の影響をほとんど受けていない。この間の大きな景気変動は第一次大戦による好況と不況,および昭和恐慌である。大正 3 年から株式配当収入が入り始めたことと,都市近郊の上層農家であったことが関係している。そして,高額小作料が発生している。 資本主義の進展または工業化との関係について,以下の点を明らかにした。第一次世界大戦の前年,大正 2 年の後,雇傭労働者は全く姿を消している。大