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金谷嘉郎著『近代日本経済史の諸問題』を読んで105阪市を中心とする工業化の進展により,農外に雇傭の場を求めて出ていったと考えられる。第4部 幕末の先進地農村 金谷氏は幕末の一つの村の分析を通して,幕末開....

金谷嘉郎著『近代日本経済史の諸問題』を読んで105阪市を中心とする工業化の進展により,農外に雇傭の場を求めて出ていったと考えられる。第4部 幕末の先進地農村 金谷氏は幕末の一つの村の分析を通して,幕末開港以前の先進地帯において,農村雇用労働者が生まれ,資本主義,又は工業化を受け入れる一条件が生まれていたことを明らかにした。 金谷氏は, 幕末期における大和平野の一村落(大和の国式下郡結崎中村)をとりあげ,その村落における労働力の放出および吸収を検討することにより,幕末期の賃労働形成の視点から幕末の先進地農村を実証的に明らかにした。幕末においては綿作を中心として,商業的農業の行われた地帯に属していた村であった。この村は先進地帯の諸村落と同様に,農民層分解が進展していた。土地所有の少ない家族では,男子は主として農業労働に従事し,女子は農業および綿工業に従事した。労働力の販売によって給銀が支払われ,その収入への依存度を高めている村である。同村では,経営に対する労働投下は制約され,その経営は劣弱化する。下層の貧農化,農村賃労働者化が進行しつつあった。以上のような事情は,幕末開港以降になると,さらに明らかとなり,村落の生活水準の最も低い階層の労働力は大量に放出している。それらは労働力の販売による収入を得る農村労働者兼雑業者が現れたことを明らかにした。 金谷氏は幕末期の農村を丹念な実証分析で明らかにする事によって,農村からの労働力の排出が,後の明治期の都市労働者層形成への一過渡的形態であることを解明した。 金谷氏は幕末における農民層分解によって,農村下層民が都市へ流出し,初期工業賃労働者層の形成の一環を担い,それが明治以降の資本主義又は工業化の発展の一環となったと結論付けている。 これらはいずれも金谷氏の詳細で手堅い実証研究に基づくものであるが故に,本書が経済史研究の後学に与える影響と学会への功績は大きいものがある。