096号

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保安処分に関する一考察127ております。 そういう立場にたって, 東京弁護士会としましては, 全面改正に反対の立場をとっておるということ。そしてまた,反対等の理由は,おそくとも四月ころまでにまとめて発表し....

保安処分に関する一考察127ております。 そういう立場にたって, 東京弁護士会としましては, 全面改正に反対の立場をとっておるということ。そしてまた,反対等の理由は,おそくとも四月ころまでにまとめて発表しようかというような段階になっております。……弁護士会の立場から,刑法改正に反対するという意見を述べさせていただきます。」102 第29回会議に至り,刑法全面改正に反対する見解が保安処分に関しても唱えられたが,時既に遅しの感もあるといえようか。とはいえ,ここでの保安処分に関する反対意見は,その深みを増している点で,特に注目に値する。弁護士で刑法研究者のG 委員の反対論は,将来の危険予測の困難性と,治療と拘束の非両立性が的確に示されていると思われる。特に,後者の点については,精神神経学会の意見書103等の影響が強いことが推測されるが,とはいえ,このような観点が刑事法特別部会で提起されたのは,この第29回会議に至って初めてのことであった。 しかしながら,残念なことに,特にこの後者の点,すなわち,社会との関係を断ち切った上での治療は精神医療の否定ではないかとの問題提起は,この第29回会議でも,またその後の最後の第30回会議でも本格的に議論されることはなかったし,刑事法特別部会の速記録を管見する限り,この委員以外の委員に共有されたとは言い難いように思われる。 また,この点の議論が不十分であったところに,刑事法特別部会の議論の限界があり,かつまた,その後のこの問題に関する議論においても,例えばどの102 法制審議会刑事法特別部会第二十九回会議議事速記録106頁以下。103 「保安処分制度新設に反対する意見書」(日本精神神経学会理事会・保安処分に反対する委員会,1971年 8 月)青木薫久『保安処分と精神医療』(批評社,1980年)308頁以下によれば,「精神障害者,酒精薬物中毒者に対して確実な予測表が存するとは考えていない」「個々に治療の努力がなされることはあろうが,拘禁状況下において治療が成立するのは至難のわざであり,結局は治療の名をかりた拘禁にすぎないという結果になると考える」「保安処分制度の導入は,刑事政策による精神科医療に対する不当な圧迫であると考える。……現行精神衛生法下においてさえ,精神科医療が著しく歪曲され,精神障害者が総体としては治安的に管理されている現状を一そう助長し,精神障害者に対する差別と人権蹂躙を増大させることは明らかである」とする。