096号

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136 高知論叢 第96号去して保安処分を議論していたとはいえないのではなかろうか。 刑事法特別部会では,改正刑法草案が確定した。周知の通り,同草案はその後挫折するなどしたため,保安処分の導入が実現すること....

136 高知論叢 第96号去して保安処分を議論していたとはいえないのではなかろうか。 刑事法特別部会では,改正刑法草案が確定した。周知の通り,同草案はその後挫折するなどしたため,保安処分の導入が実現することはなかった。しかしながら,この刑事法特別部会での,強制医療が医療としてあり得るかとの論点は,その後も精神の障害による触法行為における議論において,深化することはなかったように思われるのである。5 おわりに 本稿では,かつての法制審議会刑事法特別部会の議論について,特に保安処分に関する議論の検証を行なった。冒頭でも言及した通り,その作業により意図したところは,現在施行されている医療観察法が実現した背景の一つに,かつての保安処分に関する議論の限界が影響したのではないかとの仮説を検証することであった。そのため,引用が冗長になる憾みもあったが,あえて詳細に刑事法特別部会の議論を引用した次第である。 前章で特に詳しく確認した通り,刑事法特別部会では保安処分の必要性が肯定された訳であるが,その議論の過程における反対論の重要な論点は,危険性の将来予測と強制医療の不可能性であったと思われる。前者の論点については,その困難性はその後もしばしば指摘されているが,医療観察法の「医療の必要性」との異同につき,なお検討が必要であろう。 本稿が特に重視するのは,後者の強制医療の不可能性の問題である。刑事法特別部会でも既に委員の一人によりこの指摘はなされたが,それが他の委員にどこまで共有されたかについては疑問があることは,既に言及した通りである。精神医学に携わる者の反対の動きが,刑法改正,特に保安処分導入を進める方向での議論にとってショッキングな事件であったことは想像に難くないが,その「政治的意味」以上に重要な強制医療の不可能性の「論理的意味」の深化が見られなかったことは残念であると同時に,その後のこの種の議論にとっても大きな「欠点」となったといっては,言いすぎであろうか。 本稿では,医療観察法については本格的な検討は行なっていないため,刑事