096号

096号 page 50/170

電子ブックを開く

このページは 096号 の電子ブックに掲載されている50ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「電子ブックを開く」をクリックすると今すぐ対象ページへ移動します。

概要:
48 高知論叢 第96号た荒廃した農山漁村の風景もいたるところに存在する。豊かさと荒廃が同時に見える場所,それが高知県の農山漁村である。 近年,農山漁村の維持と発展を目的として,多くの法が作られ,また改正....

48 高知論叢 第96号た荒廃した農山漁村の風景もいたるところに存在する。豊かさと荒廃が同時に見える場所,それが高知県の農山漁村である。 近年,農山漁村の維持と発展を目的として,多くの法が作られ,また改正され,様々な政策が企図され,実施されてきた。農業法分野で言えば,農業基本法に代わり新たに食料・農業・農村基本法が1999年に作られ,食料・農業・農村基本計画に基づき,多くの農林水産業振興策や農山漁村の活性化対策がなされてきたことなどがその代表例といえるだろう。とりわけ中山間地域においては,2000年から中山間地域等直接支払制度が導入されるなど,条件の不利な地域の維持と再生に向けて努力がなされている。 しかしながら,こうした法や政策が次々と作られ,実行されているにもかかわらず,地域の衰退傾向は止まらない。「限界集落1」という言葉に象徴される中山間地域の衰退は,もはや地域の維持・再生が不可能な段階になりつつあることを示している。問題は中山間地域だけではない。平場の優良農地は無秩序な開発によって次々と転用され,スプロール化する都市に呑み込まれようとしているし,漁村の過疎化・高齢化も深刻である。過疎化・高齢化が急速に進む高知県では, 農山漁村の衰退に歯止めがかからず, 特に深刻な事態になっている。地域の維持・再生に,有効な手立てを少しでも講じていく必要があるが,高知の状況は遠からず全国に広がるものと予想され,その意味では全国的な問題である。 本稿では,地域の農業者が代表となって構成する市町村農業委員会に焦点をあて,地域の農業,農村の維持と発展に委員会が果たしている役割を,農業委員会活動の検討を通じて明らかにしたい。農山漁村における地域社会の維持は,これまで集落の自治的機能に信頼を置き,そこに託してきた面があるが(例えば直接支払いは集落単位での交付,あるいは農業で言えば集落営農の推進など),集落機能が内的・外的要因から限界に近づく中で,これを補完し,地域を支えていく存在が重要になってきている。地域社会の維持に市町村行政が果たすべ1 大野晃『限界集落と地域再生』(2008年 高知新聞社)p. 23以下。限界集落という言葉はもともと大野氏が1990年代初めに定義した集落の概念であるが,65歳以上人口比が50%を超える集落をいう。