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86 高知論叢 第96号 戦後の全面改正作業9は,1956年(昭和31年)10月,法務省刑事局内に「刑法改正準備会」とよばれる非公式の委員会が設けられたことから始まった。同準備会は,法務省特別顧問に選任されていた小....

86 高知論叢 第96号 戦後の全面改正作業9は,1956年(昭和31年)10月,法務省刑事局内に「刑法改正準備会」とよばれる非公式の委員会が設けられたことから始まった。同準備会は,法務省特別顧問に選任されていた小野清一郎を議長として,学者や実務家など刑法の専門家十数名により組織され,審議を重ねた結果,1961年(昭和36年)「改正刑法準備草案」(以下,「準備草案」)を完成し,公表した。同準備会においては,仮案が一つの重要な参考資料とされた10。「淳風美俗」思想をバックボーンとする仮案を出発点とする準備草案に対しては,仮案の呪縛を否定することはできない11といった根強い批判12が存在した。しかし, 法務省の認識としては,「各方面から意見や批判が寄せられながらも,全体としては,これを基礎とする刑法の全面改正に賛同する意見が強い」ということで,正式の手続で改正作業を進めることに決め,1963年(昭和38年),中垣國男法務大臣から法制審議会に対し,「刑法改正を加える必要があるか。あるとすればその要綱を示されたい」との諮問(諮問第二十号)が発せられた。諮問を受け,法制審議会に「刑事法特別部会」が設けられ,刑法改正の問題をあらゆる角度から検討することになった。 刑事法特別部会は,小野清一郎を部会長として,1963年(昭和38年) 7 月から1971年(昭和46年)11月までの約 8 年余の審議を経て,「刑法に全面的改正を加える必要がある。改正の要綱は同部会の決定した改正刑法草案による。」と決定し,これが法制審議会に報告された。 法制審議会は,1972年(昭和47年) 4 月から会議を開き,刑事法特別部会が作成した草案を原案とし,若干の修正を加えて改正案を確定した上で,1974年(昭和49年)「刑法に全面的改正を加える必要がある。改正の要綱は当審議会の決定した改正刑法草案による。」との答申を法務大臣に答申した。 改正刑法草案は,市販の六法にも登載されるようになる一方,激しい反対意9 法務省刑事局『刑法改正をどう考えるか』(大蔵省印刷局,1974年),法務省刑事局『刑法全面改正の検討結果とその解説』(大蔵省印刷局,1976年)等参照。10 法務省刑事局『刑法改正をどう考えるか』(大蔵省印刷局,1974年)28頁以下,吉川経夫「改正刑法準備草案について」『刑事立法批判の論点』(法律文化社,1967年)4頁。11 桜木澄和「刑法『改正』作業の思想史的源流」『法学セミナー』第203号(1972年)50頁。12 前川信夫「一〇〇年後の同胞のために」大阪弁護士会編『一億人の刑法』(科学情報社,1974年)280頁等。