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2 高知論叢 第97号られた土地を集約的に利用するために,日本の気象条件の下で,放置すれば極相林化する林野に火入れをはじめとする労働力を投下し,草地や柴山に改変することによって,生活に必要な薪炭や生産活動に必要な萱や秣の供給地として機能した3・4(戒能1964・渡辺・北条1975・Mckean 1992)。同時に, 極相林化を抑制した副産物として,生命の多様性を維持することにも寄与してきた。 現在,日本において,入会による自然資源の利用・管理秩序は,さらなる転換期を迎えている。一方で,生活・生産活動の両面において,身近な環境への依存度が低下し,身近な環境から従来どおりの形で資源を取得することは経済的合理性・必要性を失いつつある5。他方で,近年,環境から資源を取得・消費するのではなく,環境をそのまま享受するという利用方法(レジャー)が現れている。日本の入会は,集団内部の構成員が自然資源を持続的に利用し続けるためストックを形成し,ストックの管理労働を投下する代わりに,外部者を排除し内部者による資源取得を調整することによって成り立ってきた6。地方では過疎化・高齢化が進行し,資源の過剰利用ではなく過少利用が問題となっているため,従来通りの入会的秩序により労働力を投下して2 次的(人為的)に形成された環境を維持し続けることは困難である(飯國2010)。このように, 入会的秩序は何らかの再編を迫られているが,その検討に先立ち,Hardin の予測に反して入会的秩序がどのように発生したかを解明し,その機能的な可能性と限界を改めて認識しなおす必要があるのではないか。3 日本では,農業機械が普及するまで,牛馬は牧畜用ではなく農耕用に利用していた。牛馬の飼料として秣を用いた。萱は,家屋の屋根を葺くために用いたほか,糞と混ぜて堆肥として利用していた。家庭用の熱エネルギーは薪炭から調達していた。4 河川・ため池・地下水脈等からミクロな水分配を行うための農業用水路は,もともと自然の乱流河道を利用してはいるが,近世以降に労働力を加えて人工的に恒常的な水路に仕立て直されたものである(玉城1983)。農業用水路についても,浚渫等の管理労働がなければ機能を維持できないし,公正な分配ルールがあって初めて労働が報われる。5 例えば,林野入会については次のような原因を指摘できよう。第1 に,化学肥料が普及し,草地を人工的に作ってまで採草する必要はなくなった。第2 に,労賃が高騰し,林地からの木材の伐り出しが困難になった。第3 に,電力が普及し,薪炭から日常生活に必要なエネルギーを得る人はいなくなった。6 草原性の景観は,阿蘇の草千里・三瓶山など日本に数多く存在する。しかし,日本の気候条件の下で,草原は管理労働を前提としてしか成立しない(沼田・岩瀬2002,198頁以下)。