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高知県における過疎対策の現状と今後の課題125日本列島の基軸的な交通・通信ネットワークを整えたのに対して,過疎法は末端の過疎地域から道路交通網を整備して前者につなげる役割を果たし,その意味で前者を補完す....

高知県における過疎対策の現状と今後の課題125日本列島の基軸的な交通・通信ネットワークを整えたのに対して,過疎法は末端の過疎地域から道路交通網を整備して前者につなげる役割を果たし,その意味で前者を補完することになった。結果として,過疎法に基づく道路網整備の突出的な先行は,過疎地域内における「中心地と周辺集落の格差を救いようもないほど拡大」し,「高速道路が整備され時間的距離が短縮されると,相対的に弱い地域が強い地域に吸収される」という「ストロー効果」を発揮した,という形で田代氏は過疎対策事業を総括している。 また,小泉和重氏は,1990年代以降の変化として,過疎債の活用が道路偏重型の社会資本整備から1990年代に入って観光・レクリエーション開発とその担い手としての第3 セクターの設立に大きく変化したことを明らかにし,過疎債は地方債の体裁をとった「財源付与」として,過疎対策事業の重要な政策ツールとして活用されてきたことを示した。11 そして小泉氏は,第3 セクターの評価については事例によって賛否が分かれるとしながらも,過疎問題に真にアプローチするためには,過疎地の産業振興と雇用の安定確保,さらには若年層の定着が不可欠であるから,過疎債と地方交付税制度を安定的に維持して過疎自治体に地域社会の守り手としての役割を求めるべきであることを提起されている。 多田氏と田代氏の提起をふまえれば,過疎対策事業の評価については,過疎関係市町村の財政事情と,国全体の国土計画に基づく広域計画,という観点から考える必要がある。過疎対策事業は,過疎関係市町村の財政を支え社会資本への投資を促進する役割は果たしていたものの,国土計画に従属させられるような形で過疎対策が設計されることで,過疎地域そのものの問題に対する対処がなされなかったという限界を抱えていたといえるだろう。また,小泉氏が明らかにされているように,1990年代以降は過疎地域の産業振興に重点が移されつつあるが,第1次産業の衰退に迫られて自治体自らが観光や地場産業の振興といった「市場的な領域」に入っていかざるを得ないということは,過疎自治体の財政状況に地域社会がより強く依存することになっていることを示している。過疎関係市町村の財政事情に関して, 財政学, 地方財政論からの研究は,11 小泉(2008), 74-85ページを参照。