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140 高知論叢 第97号村の財政的状況による制約から建設業の雇用についても今後大きく増えることが見込まれないということになると,第1 次産業の振興は避けては通れない課題となる。しかし,本稿では,第1 次産業の....

140 高知論叢 第97号村の財政的状況による制約から建設業の雇用についても今後大きく増えることが見込まれないということになると,第1 次産業の振興は避けては通れない課題となる。しかし,本稿では,第1 次産業の振興のあり方など条件不利地対策について詳細に検討する条件がないため, 高齢化の進んだ過疎地域の状況にあった産業振興のあり方に限定して検討しておきたい。 小田切徳美氏は,国内農業,なかんずく稲作経済の絶対的縮小,農村労働市場の縮小にともなう農外所得の減少も加わった農家経済の全面的萎縮傾向の本格化のなかに現在はあるとした上で,農山村地域の新たな経済の4つのポイントを挙げておられる。29 そのポイントの一つである「小さな経済」の事例として,2005年6 ~ 7 月に山口県の中山間地域の住民を対象として行った,「経済的水準が不十分な場合,あといくらぐらいの月額収入が必要か」というアンケート結果を示されている。結果としては,性別・年齢を問わず6 ~ 7 割が経済的水準が「不十分」と答えたが,追加所得としては最小で月3 万円,最大で月10万円,すなわち年収で36万~120万円の増収があれば, ほとんどの地域住民が願いを叶えることができるというものであった。そこで,小田切氏は小さな水準の所得形成機会=「小さな経済」を確実に地域内につくり出していくことが重要であるとされている。仮に年収で60万円程度であれば,直売所における農産物の販売や農産物加工による収入などで実現が可能である。 「小さな経済」をつくりだすことは,安定的な兼業農家を維持するためにも重要であるが, 高齢者の福祉という点からも注目されるようになってきている。高知県内でも産業と福祉を統合する視点での取り組みはいくつかみられる。30高知県も,「中山間総合対策本部」をつくり,中山間地域の総合対策の柱として,「生活を守る」ということだけではなく,「産業をつくる」という観点も加え,中山間地域で一定の収入を得ながら,安心して住み続けることができる仕組み29 小田切(2009),3-6ページ。小田切氏が挙げているポイントとは,6 次産業型経済,交流産業型経済,地域資源保全型経済,小さな経済の4 つである。30 例えば,高橋(2001)では,高齢者の就業を確保するとともに作業を通しての「生きがい」を創出することを目的とした旧池川町(現仁淀川町)の高齢者生産活動センターの事例が紹介されている。