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自然資源をめぐる秩序形成に関する序論的考察11裏切りか条件付協力に変化する。当事者が協力する可能性は,ひとえに当事者が条件付協力戦略(conditional cooperation, しっぺ返し戦略tit-for-tat)を採用する可能性....

自然資源をめぐる秩序形成に関する序論的考察11裏切りか条件付協力に変化する。当事者が協力する可能性は,ひとえに当事者が条件付協力戦略(conditional cooperation, しっぺ返し戦略tit-for-tat)を採用する可能性にかかっている(84)。まず,2×2 繰り返しゲームにおいて,条件付協力戦略をB と呼ぶとすると(B, B)が安定的かどうか(一方的にD∞に変更する誘因がどの程度あるか)が問題となる。割引率があまり大きくない場合,将来的に失う利益が相対的に大きく裏切りから即座に得られる利益は少なくなるから,しっぺ返し戦略が採用されて(B, B)が均衡になる(66)13。また,保証ゲームになる場合,しっぺ返し戦略でもD に対して一度だけC とする戦略(B, D, C,D…に対してB, C, D, C…)を採用し,(B, B)に至る。ここでも,割引率が一定の不等式を満足する場合に(B, B)が均衡になる(67-68)14。 次に,N 人繰り返し囚人のディレンマゲームにおいて,当事者が条件付協力戦略をとる場合,2×2 繰り返しゲームをそのまま拡張することができる(85)。さらに,当事者の部分集合が一定の条件を満たす場合には,当事者の戦略が変化し囚人のディレンマゲームにチキンゲームが巣を作る可能性がある(88-96)。 では,現実に条件は満たされるのか。公共財供給に関わる人員の数が多ければ多いほど,満たされなければならない条件(適当な条件付協力が存在する条件と全協力者の割引率が満たされなければならない不等式)も増える。条件付協力者が他の構成員を監視することができれば協力は維持しやすいから規模が重要である。共同体で監視と条件付協力が可能になるのは,比較的規模が小さいだけではなく,構成員の関係が密な場合である15。中程度の規模の集団の場合には,当該公共財便益を享受できないだけではたりず,制裁が必要になる。なお,制裁は集権化されているとは限らない(104-105)。13 2×2 繰り返し囚人のディレンマゲームにおいて,条件付き協力戦略を採用する場合,裏切りによって一度は得するが(D∞, B),その後はB を取り続けるよりも少ない利得しか得られない(D∞ , D∞ )。同じゲームが続く限り,裏切りから即座に得られる利得や割引率がそれぞれに大きければ裏切りが得である(割引係数をa iとすると,1-a i≧(x-w)/(y-w) が条件である)。14 同様に,2×2 繰り返し保証ゲームにおいて,(B, B) が均衡である必要十分条件は,各プレーヤーの割引率 1-a i≧ (y-x)/(y-w) および1-a i≧ (y-x)/(x-z) である。15 さらに,3-1で議論するように,集団からの離脱可能性が低く,特権的主体・集団が存在しない場合にも,共同体的制裁が機能する。