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コモンズ形成の原理と現代的課題21草地とする)を事例に共同利用の展開と過少利用問題の発生をまとめ,排除可能性だけでは把握しきれないコモンズ利用の実態を整理したい。 三瓶草地は島根県大田市の三瓶山に立地す....

コモンズ形成の原理と現代的課題21草地とする)を事例に共同利用の展開と過少利用問題の発生をまとめ,排除可能性だけでは把握しきれないコモンズ利用の実態を整理したい。 三瓶草地は島根県大田市の三瓶山に立地する。三瓶山はトロイデ型の火山であり,草地はその裾野を中心に広がっている。三瓶草地の入会利用については,藩政時代にまで遡るとの指摘もあるが,その実態ははっきりしない。入会利用が明確に確認できるのは,明治初期である。東京大学農政学研究室による調査がその実態を明らかにしている。4 草地は,村々の境界が明確に線引きされながらも利用上は柵や堀などを設けず,一体として利用された。すなわち,山麓の村々がそれぞれの共有地を提供し,相互に利用しあう村々入会が成立していたとされる。 三瓶草地が私有地ではなく,入会地として利用されるようになった背景にはいくつかの理由が考えられる。その第1 は,水である。火山灰土に覆われた三瓶山麓,とりわけ,地元で「はら」と呼ばれる台地状の土地には表層水がほとんどみられない。図1 は,三瓶山麓の入会地・河川・池などの分布を示している。二重線は現在の道路を示し,実線は入会地の境界を示す。入会境界内の中央部には三瓶山の山頂部が位置し,その周辺に「はら」が展開する。入会地はいずれも標高400m 以上に分布し,このエリアには河川(点線)がみられない。河川の源流は入会地より一段低い位置にあり,これより下流には水田が広がり,集落が形成されている。 第2 の理由は土壌成分である。火山灰の多い土壌のため,植物がリン酸欠乏を起しやすい。第3 は耕作土壌の問題である。入会地の土壌は表土が薄く,しかも,土壌浸食を起こしやすいため,耕作に不向きである。第4 は風である。4 東京大学農政学研究室の報告によれば,1875年(明治8 年)には三瓶山山麓に5 つの村があり,総戸数は704戸,牛の飼養頭数は1340頭,馬は121頭であったとされる。1 戸当たりの牛馬の飼養頭数は2.3頭であり, 周辺地域(安濃郡)の平均飼養頭数0.6頭を遥かに凌いでいる。三瓶山麓がこの時期に牛の産地として確立されていたことがわかる。牛の生産を支えたのは言うまでもなく三瓶草地である。上記の5 カ村が1876年(明治9 年)に県に提出した地籍帳によると草山の合計は 1,770ha,うち柴草場は 1,083ha,馬草場が 687ha を占める。1 戸あたり2.5ha もの草山をもち,飼料や堆肥生産に用いたと推定される馬草用の草地も 1 ha に上る。豊かな草資源こそが近隣地域の3 倍を越す牛馬の飼養を支えたとされる(東京大学農政学研究室[6])。