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46 高知論叢 第97号まざまな努力を行い,アジロへの権利を維持しようと努力している。葉山〔7〕はこのような状況を,「アジロの占有は,アジロを使っているという事実によってのみもたらされるものである」とまとめ....

46 高知論叢 第97号まざまな努力を行い,アジロへの権利を維持しようと努力している。葉山〔7〕はこのような状況を,「アジロの占有は,アジロを使っているという事実によってのみもたらされるものである」とまとめている。また。小値賀島の漁師の内部では,アジロを利用できる漁師と利用できない漁師の間に当然対立があるが,ただ他の地域の漁船がアジロを勝手に使うと,小値賀島の漁師達は集団でその漁船を取り囲み漁を妨害して漁場の外へ追い出し,個々の漁師のアジロへの権利を集団全体として擁護するよう振る舞うという。 この小値賀島の,集団の内部でアジロの利用実績が利用の優先権に移行する過程の事例は, 集団内部で資源系の囲い込みがどのように進行するかを示していて興味深い。森村〔15〕の整理によれば,ジョン・ロックの『統治論』では,私的所有権の根拠として,(1)価値の創造:自分の労働によって価値を創造したものはそれを取有する権利がある,(2)功績:苦役に応じた報酬を労働したものは受けるに値する,(3)人格の拡張:自然の資源に自らの労働を投入した人は,対象を自己の人格が拡張したものとして正当に所有する,(4)生存と繁栄:各人が生存・繁栄するためには人が自然の資源を占有できなければならない,の4 点を挙げられている(註11)。上記のアジロの優先権確立の過程はこの全てを含んでおり,集団内部である種の権利が確立していく過程としては妥当かつ普遍的なものであると考えられる。 もう一つ重要な点は,(1)アジロは空間的に限定されている,(2)囲い込み自体も,仲間内の競争のレベルではアジロを発見しその場所で漁を継続するという比較的緩い条件で優先権を認められる,しかも(3)集団外との紛争は集団全体として対処できるということで,囲い込みコスト自体は,漁師個人によっても負担できる程度の比較的低位に抑えられているものと見られる点である。このようなアジロの事例は,漁業資源の利用においては,海面や資源系の状況と同時に,漁法・漁具といった漁業技術や漁業の種類で,資源利用に関わるコストや最適な利用形態も変わってくることを示唆している。そこで,次の小節では,漁法・漁具といった漁業技術や漁業の種類,権利のあり方の違いにより漁業テリトリーを分類した橋村〔6〕の区分に依拠して,資源の特性と漁場利用の関係を検討する。