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64 高知論叢 第97号代史に大きな影響を与えた。 日本において統帥権と呼ばれてきたものが,米国では大統領,英国では国王にあり,また今日の日本においては,自衛隊法により,内閣総理大臣が最高指揮監督権を持つ....

64 高知論叢 第97号代史に大きな影響を与えた。 日本において統帥権と呼ばれてきたものが,米国では大統領,英国では国王にあり,また今日の日本においては,自衛隊法により,内閣総理大臣が最高指揮監督権を持つものに限りなく近いが,日本語の統帥権という語はもはや使用されることはない。 昭和初期の日本では,参謀本部の軍令と,国務大臣が補弼するところの軍政,軍制の範囲についての争いが原因で,統帥権干犯問題が発生したことから,統帥権独立が昭和初期の問題であるかのような理解があり,明治以降の歴史的過程が必ずしも明快に論じられてこなかった。例えば,明治初期においてすでに陸海軍の指揮が分裂,対立し,政治と軍政が分離していたならば,明治初期から日本の統帥権は存在しなかったことになる。 本稿の課題は,日本の統帥権の歴史的過程を明らかにすることである。日本の統帥権独立問題,統帥権干犯問題なるものの歴史的性格は何だったのか,そしていつから,如何なる性格変化が生じていたのか,それらについて今日においても若干の理解の相違があるように思われる。われわれはまず過去の統帥権思想を概観する作業からはじめたい。1. 君権と戦争に関する思想(1)アリストテレスの戦争論 君主と戦争に関する思想はアリストテレスからはじまる。 アリストテレスは『ニコマコス倫理学』において「人間は本性上国家社会的なものにできている」1 この確信は政治学・国家論の中心テーマとなり,大著『政治学』で完結する。アリストテレスは『政治学』の冒頭を次の一文から始めている。「国は現にわれわれが見る通りいずれもある種の共同体である」2 そしてその共同体は最善のものを常に目指しており, それは国家, 国家という共同体であるという。アリストテレスは『政治学』において,ふたたび次のテー1 アリストテレス『ニコマコス倫理学』河出書房新社1966年6 月25頁2 アリストテレス『政治学』『アリストテレス全集15』岩波書店1969年3 月3 頁