097号

097号 page 84/212

電子ブックを開く

このページは 097号 の電子ブックに掲載されている84ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「電子ブックを開く」をクリックすると今すぐ対象ページへ移動します。

概要:
74 高知論叢 第97号国家であった。それゆえに組織された官僚制と行政組織が必要であり,周辺諸国との攻防の中で強大な軍隊が必要であった。クラウゼヴィッツ自身も軍高官として従軍する中で実戦を経験するとともに....

74 高知論叢 第97号国家であった。それゆえに組織された官僚制と行政組織が必要であり,周辺諸国との攻防の中で強大な軍隊が必要であった。クラウゼヴィッツ自身も軍高官として従軍する中で実戦を経験するとともに,多くの文献を学び,政治,軍事についての著作を発表した。その後プロイセン軍を離れて一時ロシア軍の作戦参謀となり,ナポレオン軍との激戦では持久戦に追い込んでついには休戦に導いた。プロイセン軍に戻り,参謀長,陸軍大学校校長を歴任した。クラウゼビッツの軍事研究は後に『戦争論』として刊行された。 クラウゼビッツは次のように述べている。「戦争は情意に根ざしている戦争は力の行使であり……敵対感情と敵対的意図から成っている」14 「敵の無力化あるいは敵の打倒がいつも軍事行動の目標でなければならない」15 クラウゼビッツは,未開人の戦争はばらばらな抗争であるが,文明国の戦争は,組織的力の行使であり,理性的行為であると述べた。しかし,「文明国民の戦争が未開民族の戦争よりは残忍さや破壊性が極めて少ない」16 という指摘は20世紀の戦争の歴史を知る我々には多少の違和感がある。他方で,クラウゼビッツは文明国の戦争はその暴力性が無制限に増大するとも述べ,これが戦争の一つの性格である事を明らかにした事は卓見であった。 クラウゼビッツは,文明国の戦争が無制限な暴力性という性格を持っているために,軍が果たすべき役割,求められる使命とは,敵との戦闘の無制限な拡大の悪循環を途中で断ち切ることにあり,そのためには敵の戦闘力の徹底的な破壊が文明国間の戦争における軍の使命であるとした。特に陸軍の任務は敵部隊を殲滅することであり,副次的に敵の都市,地域を攻略することが任務だとクラウゼビッツは考えた。無制限な戦闘行為の拡大と,ここから派生する陸軍の残虐性は古今東西の戦争の歴史において繰り返された。 クラウゼビッツは,戦争が有するもう一つの性格を指摘する。それは,戦争とは政治の延長であるということにあるというテーゼである。クラウゼビッツは次のように述べる。「戦争術は,その最高の立場では政治となる。しかし,14 クラウゼビッツ『戦争論』1832年 芙蓉書房出版2001年7 月24頁15 同上書360頁16 同上書23頁