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戦争論の系譜(1) 79(7)ジョミニの統帥論 クラウゼビッツとほぼ同時代に生き,普仏戦争における実戦においても,クラウゼビッツの好敵手であったアントワーヌ・アンリ・ジョミニはスイス系フランス人である。ジ....

戦争論の系譜(1) 79(7)ジョミニの統帥論 クラウゼビッツとほぼ同時代に生き,普仏戦争における実戦においても,クラウゼビッツの好敵手であったアントワーヌ・アンリ・ジョミニはスイス系フランス人である。ジョミニは,後世にクラウゼビッツと並び称される戦争論の古典的業績を残しているが,クラウゼビッツほど日本には紹介されなかった。それは明治初年の日本陸軍がフランス式兵制からプロイセン式に変更したことと無関係ではない。ジョミニはスイス傭兵を経験し,軍事理論の研究をした後,フランス軍に籍を置き,ナポレオンを高級幕僚として補佐するまでに出世し,幾多の軍功を挙げ,ロシア軍事教官にもなった。従軍後も戦争理論を研究した成果は1838年に『戦争概論』として出版された。クラウゼビッツ『戦争論』の刊行後6 年のことであった。クラウゼビッツが戦争の定義や政治との関係などに重きを置いているのに対し,ジョミニは戦術に重点をおき,戦争の類型,制度,統御,作戦,などについて詳しく論述している。 ジョミニは陸軍の任務,作戦行動を体系的に説明して,世界の軍事界に大きな影響を与えた。しかし,ジョミニの著作が日本に紹介されたのはやっと1903年であり,独訳からの部分訳で,しかも畑違いの海軍大学校で紹介されたことを見ても,明治初年以降における日本陸軍がプロイセン軍制をいかに教条的に支持し,フランス軍制を否定してきたかを垣間見ることができる。 ジョミニは,戦争行為の原因として,権利の回復と保守,国益の維持と防護,勢力均衡,政治的・宗教的な信条の普及,領土の拡大,征服欲求の達成などをあげている。ジョミニは,権利回復のための戦争,犠牲と危険を担保して将来の国益が保障される戦争が最も妥当な戦争であると述べている。 ジョミニは戦争の定義や戦時国家の政府と軍の関係についても言及している。ジョミニもクラウゼビッツと同様に,政府が軍を,そして戦争を十分に掌握し,統帥すべきである事項だと次のように述べている。政府にとって軍事は要注意の事項である。行政府が最善の軍制を認めていない場合であったとしても,軍事だけに専心してはならないが文明国家の政府ならば常に有事即応の準備をしておかなければならない。軍が堕落しやすい平時においては監視を行い,常に軍人精神を維持して戦闘力を高めるように教育訓練しなければならない。政治