097号

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82 高知論叢 第97号なって間もなく国民の信を失った。今日軍は政治の推進力と称せられている」29と語った。 石原は統帥についても多くを語っている。「戦争の目的達成のため政治,統帥の関係は一にその戦争の性質....

82 高知論叢 第97号なって間もなく国民の信を失った。今日軍は政治の推進力と称せられている」29と語った。 石原は統帥についても多くを語っている。「戦争の目的達成のため政治,統帥の関係は一にその戦争の性質に依るものである。……政治と統帥は通常利害相反する場合が多い。その協調即ち戦争指導の適否が戦争の運命に絶大なる関係を有する。国家の主権者が将帥であり政戦略を完全に一身に抱いているのが理想である。……政戦両略を一人格に於て占めていない場合は統帥権の問題が起って来る。民主主義国家に於てはもちろん統帥は常に政治の支配下にある。決して最善の方式ではないが止むを得ない……ドイツ,ロシヤ等の君主国に於ては政府の外に統帥府を設け,いわゆる統帥権の独立となっていた時が多かった。この二つの方式は各々利害があるが大体に於て決戦戦争に於ては統帥権の独立が有利であり,持久戦争に於てはその不利が多く現われる。これは統帥が戦争の手段の内に於て占むる地位の関係より生ずる自然の結果である。」30 石原は日本の参謀本部について,統帥権の独立という概念を否定する。「我が国に於ては『統帥権の独立』なる文字は穏当を欠く。『天子は文武の大権を掌握』遊ばされておるのである。もとより憲法により政治については臣民に翼賛の道を広め給うておるのであるけれども,統帥,政治は天皇が完全に綜合掌握遊ばさるるのである。これが国体の本義である。政府および統帥府は政戦両略につき充分連絡協調に努力すべきであり,両者はよく戦争の本質を体得し,決戦戦争に於ては特に統帥に最も大なる活動をなさしむる如くし,持久戦争に於ては武力の価値低下の状況に応じ政治の活動に多くの期待をかくる如くし,その戦争の性質に適応する政戦両略の調和に努力すべき事もちろんである。しかし如何に臣民が協調に努力するも必ず妥協の困難な場面に逢着するものである。それにもかかわらず総て臣民の間に於て解決せんとするが如き事があったならば,これこそ天皇の天職を妨げ奉るものである。政府,統帥府の意見一致し難き時は一刻の躊躇なく聖断を仰がねばならぬ。聖断一度び下らば過去の経緯や凡俗の判断等は超越し,真に心の奥底より聖断に一如し奉るようになるのが我29 同上書52頁30 同上書52~53頁