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漁業権による沿岸海域の管理可能性109う方向性は,問題解決に向けたひとつの可能性を示しているといえる。 一方,本稿で主として指摘したかったのは,利用の過剰ではなく過少の問題である。紹介例として高知県内のA....

漁業権による沿岸海域の管理可能性109う方向性は,問題解決に向けたひとつの可能性を示しているといえる。 一方,本稿で主として指摘したかったのは,利用の過剰ではなく過少の問題である。紹介例として高知県内のA 地区を取り上げ,かつては漁業だけでも海を過剰利用していたような地区において,漁業関係者の減少が急速に進み,資源の過少利用とも呼べるような状況が現出しつつあることを確認した。そしてA 地区で起こりつつある事態は,高知県内の漁村においては特別なことではなく,むしろ一般的なことであるということを示した。 漁業資源の過少利用が起こりつつあるところでは,資源自体の減少もさることながら,むしろ利用者の減少によって利用がされなくなってきている,あるいは次世代の利用の見込みが立たないといったことのほうが,その主たる原因とみることができる。そこでは,従来からそこにある権利だけが残り,権利の内実が空洞化しているという状況が起こっているのである。資源の過少利用について,飯國芳明氏は牧野を例にとってその問題を指摘した24が,同様の状況が沿岸海域でも起こっているのである。 最後に,過剰な利用と過少な利用に対して,権利をどのように使うのか,漁業権による海の利用と管理の可能性について,若干の考察を試みたい。漁業法上の漁業権には,共同漁業権,定置漁業権,区画漁業権の3 種があり,このほか他人の漁業権の区域等内でその漁業と同種の漁業を行う入漁権がある。このうち特定の海域を共同で利用する漁業権が共同漁業権であり,第一種から第五種まで5 つの共同漁業権に分けられている。 共同漁業権は,「磯は地附根附次第,沖は入会」と規定された徳川期の漁場制度を承継したとされる明治34年漁業法の地先水面専用漁業権及び慣行専用漁業権に始まり,明治43年漁業法を経て昭和24年に制定された現行漁業法における共同漁業権まで引き継がれてきた漁村の入会慣行をもとにしている25。漁村の地先の海の入会集団による支配は,農村における入会山の支配と異なり,地域の慣習をそのまま認める入会権(民法263条および294条)としては規定されず,24 飯國芳明「コモンズ形成の原理と現代的課題」(『高知論叢』97 19-34頁 2010年)。25 漁業法の展開過程および内容に関して,青塚繁志『日本漁業法史』(北斗書房 2000年)を参照。