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112 高知論叢 第98号結びにかえて 以上,本稿では高知県の沿岸海域と漁業権を例にとり,海の利用と管理の実態を素描し,漁業権による沿岸海域の利用秩序形成の可能性について検討した。 本文中でも少し言及したが....

112 高知論叢 第98号結びにかえて 以上,本稿では高知県の沿岸海域と漁業権を例にとり,海の利用と管理の実態を素描し,漁業権による沿岸海域の利用秩序形成の可能性について検討した。 本文中でも少し言及したが,資源の過少利用と権利の内実の空洞化は,沿岸海域のみならず,高知県内の至るところに存在する。なぜそのようなことが起こるのかといえば,その背景には人口減,特に山村や漁村といった条件不利な地域における急速な過疎化があることは明らかである。「限界集落」という言葉に代表される地域社会全体の過疎化・高齢化は,急速に拡大し,いまや「限界自治体」が出現するに至っている28。過少利用と表裏の関係にある権利の内実の空洞化も,海だけで起こっているのではない。農地における耕作放棄,林野における人工林の管理放棄など,同様のことが起こっていると考えられる部分は,高知県のような過疎地域には,至る所に存在するものと思われる。地域資源の過少利用と権利内実の空洞化について,漁業・漁村関係だけではなく,過疎的な地域全体について,今後検討していかなければならない。 本稿では,具体的な事実に即して漁業権の現代的なありかた,すなわち利用と管理の可能性を探ったのであるが,本稿作成にあたって現地調査をすることができたのはわずか2 カ所(高知県漁業協同組合, 同A 支所)であり, 不十分であるといわざるを得ない。今後,県内の他の漁業協同組合,漁業集落について調査することはもちろん,他の地域の漁業・漁村の現実をみて,理解を少しでも深めていく努力をしなければならない。と同時に,法社会学を中心としたこれまでの漁業・漁村研究について,漁業法の歴史について,また漁業権に関する判例の展開についても再検討し,漁業・漁村・漁業権を総合的に理解して28 大野晃『限界集落と地域再生』(2008年 高知新聞社)p . 23以下。限界集落という言葉はもともと大野氏が1990年代初めに定義した集落の概念であるが,65歳以上人口比が50%を超える集落をいう。また,同書では65歳以上の高齢者が自治体総人口の半数を超え,“年金産業”が主となり,自主財源の減少と高齢者資料・老人福祉関連の支出増で財政維持が困難な状態に陥った自治体を「限界自治体」としている。高知県では長岡郡大豊町が高齢化率52.1%(総人口5,193人,65歳以上人口2,703人 平成21年1 月住民基本台帳)であり,「限界自治体」の定義に当てはまる状態である。