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10 高知論叢 第98号国法の制限外にあるの理由を以てせんとするが如き,或は実権は兵権の所在に伴ふが故に兵権は天皇に直属すべく他に委任すべからず,従て国務大臣の輔弼外にあらざる可らざるを以てするが如き,或....

10 高知論叢 第98号国法の制限外にあるの理由を以てせんとするが如き,或は実権は兵権の所在に伴ふが故に兵権は天皇に直属すべく他に委任すべからず,従て国務大臣の輔弼外にあらざる可らざるを以てするが如き,或は既に言及した様に,分割す可らざる君主の資格を国家元首の資格と大元帥の資格との二に分ち,是に依て統帥権の固有独立性を示さんとする如き,何れも同一基礎思想のもとに立つものである。」13 それまでの通説は統帥権の固有性を絶対性とする点にあった。これを中野氏は「統帥権の主権化」と表現する。これは天皇の統帥権,天皇親裁を国務大臣の輔弼を除外した点で,立憲主義の例外であり,「憲法上の責任機関を欠き政治上の安全装置を欠く」14 と述べた。中野氏は世界の憲法を統帥権の所在と運用によって分類し,①大元帥主義 ②国家元首主義に区分した。さらに国家元首主義を制限的国家元首主義と普遍的国家元首主義に分ける。大元帥主義とは国家元首が統帥することになんら憲法上制限がないものである。中野氏の定義による制限的国家元首主義とは国家元首の統帥権に関して一定の制限を設けているものであり,普遍的国家元首主義とは国家元首の統帥権をすべてにわたって制限しているものである。中野氏の統帥権の区分と類型化を氏の所説に従って筆者が図式化したものが図2-1である。但し,統帥権には統帥権独立機関がある場合とない場合というもう一つの重要な類型がある。前者の場合,問題になることは軍への指揮命令作用が国家元首や政府,立法府からも独立していることである。統帥権独立組織の中でも内閣,議会の関与によって規制された組織か否かの相違もある。中野氏はこのことを暗示しているが,統帥権独立組織の類型化として明示されてはいない。また大元帥とは統帥権を有した立憲君主をさすが,憲法によって制限を受けた制限君主制と一切憲法上制限がない大元帥主義との区分も不明確である。15 ひと13 中野登美雄『統帥権の独立』(昭和11年)昭和48年復刻 原書房 654頁14 同上書 674頁15 昭和天皇の場合,しばしば“朕は大元帥なるぞ”と勅語で発言してきた。昭和天皇は軍の総指揮官としての大元帥の顔と,政治・軍事に直接関与しない“制限君主”としての顔を常に使い分けるべきである,天皇は絶対君主ではなくあくまで制限君主である,とする教育を西園寺公望から受けてきた。憲法上の統帥大権は天皇にあり,天皇の統帥権に対する規制,制限は何ら憲法にも他の法令にも書かれていない。明治憲法は中野氏の定義では大元帥主義と言えよう。