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12 高知論叢 第98号組織と同様である。統帥権が立憲組織の枠内にあるためには,統帥権は議会の監督があるか否かが問題であり,立法機関は立法を行うだけではなく行政執行の監督が緊要となる。統帥権組織がある場合....

12 高知論叢 第98号組織と同様である。統帥権が立憲組織の枠内にあるためには,統帥権は議会の監督があるか否かが問題であり,立法機関は立法を行うだけではなく行政執行の監督が緊要となる。統帥権組織がある場合はモルトケ時代などのドイツのある時期と,1880年代から1945年までの日本を除けば,確固とした統帥権組織を有した事例は少ない。特別な統帥権組織がなく総理大臣,国務大臣の指揮命令系統から独立した統帥権組織である場合,元首の統帥権は軍事機関の補佐の下に行われる。統帥権独立組織でも軍による独占か,内閣,議会の関与によって規制された組織なのかがその性格を左右する。統帥権組織が軍以外の如何なる組織によっても関与できないとなると,それは限りなく前立憲制時代の統帥組織に接近する。日本の統帥権の思想について,中野氏は「基礎思想は前立憲制時代の軍政組織の歴史的継続」であり,統帥権組織は「軍隊組織の上部への拡張」17 であり,「軍部の行政上の自治主義」であることをこの時期に指摘したことは卓見であった。内部への独占的と外部への排他性,これは後進国の官僚制一般にあてはまる官尊民卑に通じるものであるが,中野氏はこれを,国家観に問題があるというにとどめている。他方,統帥権,統帥権独立自体が立憲制下に存在することは否定していない。中野氏は「統帥権独立は何人も拒否し能わざる組織」18 であり,分業と専門的技術的見地から「独立を要するものは兵権にのみ限らるるものでない」19 と述べた。ただし統帥権独立は,これを自由放任されるべきではなく,統帥権独立の範囲について立憲制である以上は規制されるべきである。問題点があるとすれば,統帥権を利用して,軍部が政府内の政府を作り,あたかも国家内の国家をつくっている事が問題であった。中野氏の定義による,大元帥主義,国家元首主義,さらに国家元首主義を制限的国家元首主義と普遍的国家元首主義に区分した類型の中で,日本がどの範疇にはいるかは明白である。ただし中野氏は統帥権独立組織を有する国家は,限りなく前立憲制下の独裁組織に接近するとして,日本の統帥権の濫用を批判17 中野登美雄 前掲書 727頁18 同上書 728頁19 同上書 728頁