098号

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36 高知論叢 第98号りたつとすれば,商品価値を前提にしないでその前貸しによる自己増殖は成立しない。名目上,等価交換を前提しないという「搾取の数学的証明」の本質的なポイントは,そのじつ,不等価交換をふく....

36 高知論叢 第98号りたつとすれば,商品価値を前提にしないでその前貸しによる自己増殖は成立しない。名目上,等価交換を前提しないという「搾取の数学的証明」の本質的なポイントは,そのじつ,不等価交換をふくめて,労働とは概念上区別される商品価値をふまえない説明方法にある。したがって,「搾取の数学的証明」が正当性をもてば,商品価値から剰余価値をとく『資本論』の方法は,土台からゆさぶられる羽目になる。ぎゃくに,商品価値から出発する『資本論』の説明がただしいとすれば,「搾取の数学的証明」にはおもわぬ落とし穴がふくまれていることになる。おもうに,二つの説明方法のあいだには,一方をたてれば,自動的に他方が否定される二者択一の緊張関係がある。あたかも,「搾取の数学的証明」が『資本論』の方法を補完する関係にたつかにみえるのは,価値が剰余価値をうみだす一義的な因果の不分明さにゆらいする。剰余価値の母胎が価値だということは,労働力による剰余価値創造が生産条件の排他的所有の所産だということとおなじである。なぜなら,労働力が価値をもってあらわれるその商品化は,生産条件の排他的所有の反面にすぎないからである。だから,剰余価値の説明が商品価値を前提するか否かは,剰余労働が生産関係の産物であるか否かをとう問題として,『資本論』にとって死活の意義をもつ。 それゆえ,本稿の課題は,価値が剰余価値をうみだすしくみをとく『資本論』の方法にてらして「搾取の数学的証明」を吟味し,生産条件の排他的所有からなりたつ資本の基本性格をふまえていない欠陥を指摘する。本稿によって,「搾取の数学的証明」の中心的な問題点は,『資本論』という表題が明示するマルクスの意図にはんして,搾取の主体である資本とはなにかがみのがされたことにあることがあきらかになろう1)。1) 前稿「価値形成と剰余労働」(『一橋論叢』第104巻第6 号,1990年)と同「等価交換と剰余労働の生成」(『季刊経済と社会』第1 号,1994年)で,「搾取の数学的証明」に多面的な角度から検討をくわえた。本稿では,価値が剰余価値をうみだす資本概念からの逸脱に集約して,「搾取の数学的証明」の一番の欠陥を浮き彫りにする。