098号

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4 高知論叢 第98号れた通常の意味である。しかし,このように対立せしめては,国民主権は国民という索然たる表象にもとづく混乱した思想に帰してしまう。国民なるものが自己の君主なくまたまさにこれと必然的にかつ直接に関連する全体の分節的組織なしに考えられるとすれば,それは形をなさない群衆であって,もはや国家ではなく,自己の内に形成された全体としてのみ現存するいかなる規定をも,主権をも,統治をも,裁判をも,政府をも,議会をも,それが何であろうとも,もはやそれらを持つことができない……もし国民主権の語によって共和政治の形式,しかももっと明確には民主政治の形式が意味されるとすれば……このような見解を論ずる意味はない。……主権は全体の人格性として存在し,この人格は自己の概念に合致して現実に表れるとき,君主たる人格として存在するのである……国家を立憲君主制へと形成することは実体的理念が無限の形式を獲得した近代世界の事業である」6ヘーゲルは立憲君主制下の君主主権を主権国家の正態ととらえ,国家を支えるものは高度に専門化された官僚組織であると述べた。ドイツは君主主権の下,国家の隅々まで統治する能力を有した,優秀な政策集団としての官僚組織を有し,ドイツにおける優れた官僚制の発達にその理想型を見いだした。立憲君主制下のドイツ官僚制が正態であるとすると,フランス革命後のフランスの国民主権なるものは,組織されない大衆による直接民主制であり,危うい基礎の上に成立した国家ということになる。ヘーゲルによれば,ナポレオンによってつくられた国家の形態は,国家の形をなさない群衆政治であり,フランスは国民を底辺から支えるべき官僚組織を欠いた国家であった。ヘーゲルの主張をいいかえればフランスは主権の異胎というべきであり,その対局はドイツの組織された官僚国家であった。ヘーゲルの主張通りフランス革命後のフランスは数十年間にわたる内乱を経て,その都度国体を180度変更してきた。主権の所在と統帥権の所在に関しても,19世紀中だけでも10回を超える憲法改正の中で,根本的な変更がなされた。その要因は国民を底辺から支えるべき官僚組織を欠いた国体であったためであった。6 同上書 239 頁 ~ 240 頁