098号

098号 page 7/120

電子ブックを開く

このページは 098号 の電子ブックに掲載されている7ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「電子ブックを開く」をクリックすると今すぐ対象ページへ移動します。

概要:
戦争論の系譜(2) 5ヘーゲルは同時に官僚国家は国家中の国家をなすと述べて,中世の官僚組織には否定的な側面があることを指摘したが,立憲君主制下における官僚組織の否定的側面については触れなかった。マルクス....

戦争論の系譜(2) 5ヘーゲルは同時に官僚国家は国家中の国家をなすと述べて,中世の官僚組織には否定的な側面があることを指摘したが,立憲君主制下における官僚組織の否定的側面については触れなかった。マルクスはヘーゲルを「ドイツ国家学の現状は近代国家の未完成,近代国家の肉そのものの腐敗を表す」7 と批判し,官僚制についても,権威がその原理であり,官僚制度は官僚の権威を神格化してしまうと述べた。ヘーゲルの君主国家論はドイツの君主制国家が反映しているのは当然であるが,従来のマルクス主義者達は,マルクスによるヘーゲル法哲学批判に関して,観念論から史的唯物論へ,封建主義から民主主義への道を開いたとして評価し,多くの賛辞をマルクス『ヘーゲル法哲学批判序説』に与えてきた。しかしマルクスによるヘーゲル『法の哲学』批判の中心は,神学の影響による観念論として批判することに終始しており,後の社会主義における官僚制の問題にも通じるヘーゲルの問題提起にはマルクスは全く無関心であった。ヘーゲルが評価した当時のドイツの官僚制思想を日本は導入し,日本的な兵制と官僚制度を作った。以来日本では特権エリート官僚が一般国民を支配する構造が拡大した。日本社会では軍人・官僚への臣民の服従を強要する官尊民卑の権威主義的傾向が継続した。しかし,官による国民の構造的支配は,文官,武官がつくりあげたと同時に,国民が拒否せず受け入れたものであり,国民に照応した支配構造であった。マルクス等が評価したフランス型国民主権,君主主権の制限などを日本の支配層は明確に拒否した。フランス革命による君主制の否定とその後の政争を考慮すれば,日本は統帥権独立が明確な,日本型憲法を選択することは当然の帰結であり,そのためにはドイツを倣った強固な官僚組織の構築が必要であった。ドイツ型の官僚制思想を日本に導入して, 日本に融合させることは日本にとってさして大きな文化革命は必要でなかった。律令制下以来朝廷では古色蒼然たる神事が政治と一体化して継続しており,また幕藩体制こそ世界でも類例がないほど組織された官僚組織が完成されていた。したがって過去の両官僚組7 マルクス『ヘーゲル法哲学批判序説』(1843年)高島善哉訳河出書房 昭和42年6 月 41頁