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72 高知論叢 第98号 農政の転換は,国際規律に対する適応の結果である。WTO 交渉では,国境措置の削減だけでなく,農業保護の手段を市場歪曲性の少ないものに限定することが求められている。これまで先進国などで取られてきた政策は,食料の輸出入の両面において世界市場を歪めてきた。すなわち,食糧を輸出する先進国は国内の農産物価格の引き上げを通じて過剰な生産を生み出し,しばしば輸出補助金をつけて輸出したため世界市場の価格を不当に低下させてきた。他方,輸入国は高い関税や輸入数量制限によって国内農業を保護した結果,途上国の輸出の機会を奪ってきた。こうした市場の歪みを除去する方法として国境措置の削減と生産を刺激しないタイプの直接支払の導入が国際的に進められたのである。 日本においても,WTO ルールに基づいた行動が取られてきた。しかし,直接支払制度の導入について国民合意が得られているかといえば甚だ疑問である。消費者や納税者側からみると,直接支払制度は存在そのものがほとんど認知されておらず,仮に存在を認知していても,その内容の理解は進んでいないのが現状である4。 直接支払制度が納税者の負担による制度であることを勘案するとき,制度の理解や導入に関する合意形成が進んでいない状況は好ましくない。また,日本の財政状況が逼迫している現状では,制度の存続が危ぶまれることにもなりかねない。 そこで,本稿では国民合意に基づく直接支払制度を実現するための論点整理を行うことを課題とした。 以下では,直接支払制度の原型ともいえる欧州と日本の直接支払制度を比較しながら,直接支払の負担と支払という二つの側面から,国民合意のための論点を整理する。なお,本稿の分析対象は2009年度までの直接支払制度に限定した。2010年度から導入される戸別所得補償制度については,評価の段階にないため,今回の対象としない。4 この点については,榊田みどり「直接支払制度に対する消費者の認知と評価」日本農業経済学会第20回大会のミニシンポジウム「直接支払をいかに設計すべきか?-国民合意の視点から-」を参照。