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国民合意に基づく直接支払制度設計のための論点整理77として生産者余剰の逸失分と外部経済の保全の補填に回すという仕組みとして解釈できる。 以上のように,消費者から納税者へ負担の転換は経済学的な合理性を有し....

国民合意に基づく直接支払制度設計のための論点整理77として生産者余剰の逸失分と外部経済の保全の補填に回すという仕組みとして解釈できる。 以上のように,消費者から納税者へ負担の転換は経済学的な合理性を有している。 とはいえ,社会全体としては合理的であっても,納税者側にとっては財政負担の増額を避けられない。その意味では,歓迎すべきことではなく,この転換に関する納税者の合意をいかに実現するかが課題となる。これが直接支払に関わる合意の第1 の基本課題となる。 基本課題の第2 は支払のあり方に関する合意である。価格支持制度と比較すると,直接支払制度は政策手段が多様である。価格支持政策制度ではもっぱら国境措置や市場介入によって農産物価格を引き上げ,農業経営の維持を図ってきた。そこでは,消費者からの所得移転は生産物当たりでみるかぎり一様である。これに対し,直接支払制度の下では支払対象を経営規模,形態さらには生産方法(農法)などによって限定し,支払額の水準も対象ごとに細かく変えることができる。生産物当たりの所得移転を変えうるだけでなく,資格要件(eligibility)や農家の行動制約(conditionality)などによるTargeting6が可能となる7。こうしたTargeting 手法の多様性は制度設計に柔軟性を与える一方で,支払対象や支払額をめぐる利害対立を先鋭化させる。加えて,制度を複雑化し,納税者のみならず農業経営者にとっても分かりにくい制度を作り出す傾向がある。これらの利害対立や複雑性を克服していかに合意を形成するかが第2 の基本的課題である。 合意形成の難易度はさまざまな要因に規定される。例えば財政負担への転換に関する合意形成については,負担を転換する前の政策のあり方がその難易度を規定する。転換時に削減対象となる補助金がどれだけ存在するかによって,新しい制度を支える財政の負担額が決まるからである。欧州の事例で言えば,6 Targetingとは,改革志向の政策で核となる概念である。所得や農薬といったターゲット変数に影響を与える手段のデザインが必要となる。OECD(1994), AgriculturalPolicy Reform: New Approaches the Role of Direct Income Payment, p. 107 環境支払やクロス・コンプライアンスがそうした典型である。