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78 高知論叢 第98号EU の場合には,輸出補助金と価格支持のための財政投入が巨額であったため,直接支払への転換時にはこれらが削減されて直接支払の財源の多くを賄ってきた。実際,図3 でみるように地域政策関連の....

78 高知論叢 第98号EU の場合には,輸出補助金と価格支持のための財政投入が巨額であったため,直接支払への転換時にはこれらが削減されて直接支払の財源の多くを賄ってきた。実際,図3 でみるように地域政策関連の費用を除くと,1992年から2000年当初までのEU 共通農業予算は10%程度の増加に留まっており,納税者の負担は急増しているわけではない。これに対し,スイスではチーズに若干の輸出補助金が支払われていたものの8,EU と比較すると農産物の内外価格差が大きく,輸出規模は小さいものに留まっていた。したがって,直接支払は新たな財源を必要としたのである。 食料純輸入国である日本では農業保護(主として土地利用型作物)をもっぱら国境措置や生産制限という手法に頼ってきた。このため,転換後に削減対象となる予算の規模は小さく,負担者を納税者へと転換するとき,新たな財源の確保が不可避となる。その意味で,転換のための合意形成はスイス並みの困難に直面することになろう。 また,農業と環境の関係も合意形成に少なからぬ影響を及ぼす。欧州では直接支払制度の導入時点において,過剰な農業生産が地下水汚染や景観の破壊などの形で環境に負の影響を与えているという認識が共有されてきた。デカップル型の直接支払は増産の刺激を抑制し,生産水準を低下させる働きを持つ。したがって,直接支払への転換は環境保全的農業を実現するものとして期待され,納税者負担への転換を促進するものとなった。 やや単純化して言えば,EU の場合, 直接支払への転換によって農産物の価格は低下するばかりでなく,輸出補助金も削減できる。したがって,農家への直接支払のための財政負担も軽微であり,劣化しつつある環境も保全できるというシナリオが直接支払の導入を支えたといえる。第2 の課題である支払の制度設計においても,欧州では環境保全を色濃く反映させる形で合意形成が進められた。この結果,納税者にとっての利点が明確に提示されていたと考えられる。スイスの場合,財政負担が急増するだけに環境保全型農業への転換をEU以上の速度で展開し,国民合意にこぎつけている。8 1992年の農業白書(Siebter Landwirtschaftsbericht)によれば, 乳製品への輸出補助金は連邦の総農業予算の0.2%程度を占めるに過ぎない。