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80 高知論叢 第98号あり方を転換したかどうかの2 つの点で分類する方法がある。すなわち,直接支払制度をデカップルの要件や,条件不利地域や環境保全といった「緑の政策の要件」を満たすかどうかでまず括り,いま....

80 高知論叢 第98号あり方を転換したかどうかの2 つの点で分類する方法がある。すなわち,直接支払制度をデカップルの要件や,条件不利地域や環境保全といった「緑の政策の要件」を満たすかどうかでまず括り,いまひとつの括りを直接支払が価格支持の削減を伴っているかどうか,つまり,負担者の転換を伴っているかどうかでみるのである(図6 参照)。 1992年に実施された欧州の改革では,負担の転換がまず図られ,その後,国際規律への適合性が一気に引き上げられた11。図6 でいえば,92年の改革時に点a にあった直接支払制度は2000年以降,点b に向けて移動を開始したのである。他方,日本の現行制度は価格支持を伴うものではない。既存の予算を組み替えて,国際規律に適合した制度を目指したものと捉えるのが妥当である。したがって,図6 では点c の位置に向けた制度改革の途上にある12。 負担をめぐる議論からみると,今後の日本の制度でも欧州のような負担の転換を進めるかどうかが論点となる。すなわち,今後直接支払を点c の位置に留めつつ拡大するのか,あるいは,点b の領域に移動させながら増額するのかが問題となる。 WTO 交渉の進展などによって,コメや乳製品の国境措置の削減が進めば,直接支払の一層の拡充によってこれに対応する可能性は高い。このとき,負担は必然的に納税者へと転嫁される。 日本と同じ食料純輸入国であるスイスの場合,「買い出しツアー」と呼ばれる国境を越えた購買経験が価格支持から直接支払への転換の足がかりなった。週末になると国境を越えて「買い出しツアー」にでかけた国民はそこで農産物の内外価格差(負担額)を実感し,この感覚が1992年の直接支払制度の本格的な導入を進める原動力になったのである。これに対し,日本の場合,国境が海で隔てられているだけに食品の買い出しツアーは皆無に近い。また,輸入米も食用米市場から隔離され,消費者にみえにくい形で流通してきた。したがって,日11 EU では2003年に行われたアジェンダ2000の見直しにより直接支払のデカップリングが推進された。また,スイスではこれに先行して1999年に「エコ営農証明」を導入して全ての直接支払を緑の政策とした。12 なお,新政権が提唱する戸別所得保障制度は価格支持の削減を明示してばかりか,デカップル要件を満足していない。したがって,点cの位置を目指すものにすらなっていない。