098号

098号 page 85/120

電子ブックを開く

このページは 098号 の電子ブックに掲載されている85ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「電子ブックを開く」をクリックすると今すぐ対象ページへ移動します。

概要:
国民合意に基づく直接支払制度設計のための論点整理83 第2 は,集落や地域を基礎とした設計である。これは3 つのタイプの直接支払に共通してみられる。麦大豆(等)直接支払では,集落営農を将来の重要な担い手とす....

国民合意に基づく直接支払制度設計のための論点整理83 第2 は,集落や地域を基礎とした設計である。これは3 つのタイプの直接支払に共通してみられる。麦大豆(等)直接支払では,集落営農を将来の重要な担い手とするために上述の規模要件だけでなく,法人化に向けての要件を加えるなどさまざまな誘導策がとられている。中山間地域等直接支払では,1 ha 以上の団地化が要件とされ,数戸以上の農家が共同して農地の保全を実施せざるを得ない。また,農地水環境支払では,集落の共同作業による資源保全を前提に地域内の5 割以上の農家がまとまって化学肥料や化学合成農薬の投入を5 割削減すること等が要件とされている。これらの集団的活動の要件は,韓国の直接支払の一部や欧州の夏季放牧地保全に類例を見出せる15が,あくまで例外的な存在に留まっている。 第3 は農業・環境観である。環境保全に関わる直接支払には,農地水環境支払と中山間地域等直接支払の2 つがある16。前者では,環境負荷及び化学肥料・農薬の低減が要請されているものの,後者では農地の保全そのものが多面的な機能の発揮に繋がるとされ17,いずれの制度にも農業経営を新たな環境保全に向けて再編する明確な意図は認められない。 農業の維持がそのまま環境保全に寄与するというスタンスは1999年に成立した食料・農業・農村基本法にも貫徹している。図8 は,農水省が示す食料・農業・農村基本法の骨格である。ここでは,持続的な農業の発展が外部経済を含む多面的機能を維持するとされているが,農業の自然循環機能の維持増進を図る手段としては農薬及び肥料の適正な使用の確保,家畜排せつ物の適切な処理等が言及されているに留まっている。 以上の3 点は,欧州で生まれた直接支払制度を日本に移植する際に,日本農接支払制度では収入変動緩和型の支払を大規模農家だけに限定する案が有力視されているという。15 韓国の中山間地域や水田有機農業への支払では一定の地域的なまとまりが要件とされている。また,夏季放牧地は集団的な利用が一般的であり,集団への支払といえなくもない。16 後者は,対外的には条件不利地域への支援策と位置づけられているものの,国内的には「多面的機能を確保する」ための施策とされており,環境支払との重複が少なくない。17 法令では「中山間地域等における農業生産の維持を図りながら,多面的機能を確保する」との位置づけがなされている。