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国民合意に基づく直接支払制度設計のための論点整理85払においても,1 ha 以上の農家の組織化や長期の農地管理計画が義務づけられている。農地水環境保全対策に至っては,資源保全のための共同活動と環境保全型農業....

国民合意に基づく直接支払制度設計のための論点整理85払においても,1 ha 以上の農家の組織化や長期の農地管理計画が義務づけられている。農地水環境保全対策に至っては,資源保全のための共同活動と環境保全型農業の集団取組への支援という2 層が採用されているばかりか,共同活動では非農家を含めた組織の形成やその活動内容が規定され,環境保全型農業はそうした共同作業を前提としながら,かつ,地域全体で取り組んで初めて受給できる仕組みとなっている。このほか,条件不利地域政策である中山間地域等直接支払制度においても第2 期からは規模拡大を促す制度を組み込むなどの規定がみられる。いずれも世界に類例をみない。 直接支払制度の簡素化は,元々より簡素な制度を実施していた欧州においても制度運営の上で継続的に検討が続けられてきた問題である。日本農業の特殊性を踏まえつつも,制度をいかに簡素化し,透明性の高い制度とするかは今後の制度設計の上でひとつの論点とならざるを得ない。また,集落重視の農政は近年日本の農政の中軸になってきているが,これはまた政府の農業経営に対する過度な介入の危険性をも高めている。高齢者が農業就業者の過半を占める状況下で今後とも集落機能を維持発展させる支援が果たしてどの程度の妥当性を持つのかも検証されるべき論点である。これは直接支払制度と地域政策をいかに切り分けるかという論点とも表裏の関係にある。 環境保全の扱いにも問題は残る。農業を維持すれば環境保全(或いは多面的機能)の維持ができるという認識が根強く,中山間地域で言えば棚田は水源涵養を促し,景観の保全に貢献するから,棚田の形で保全すべきだとの認識がある。しかし,水源涵養能力を評価される棚田はしばしば地滑り地帯に立地しており,洪水時には貯水するのではなく排水が急務となる。また,景観の美しさから保全しようとの主張についても,それ享受する訪問者がほとんど見込めないのであれば域外からの支援の根拠も曖昧になる。農業の現状維持は必ずしも最適な環境保全の手段ではないのである。合意形成には,保全すべき環境像を実態に即して鮮明にすべきであり,その具体像が問われている。また,農業経営者の環境に対する最低遵守事項の引き上げも,国民合意の上では欠かせない論点といえる。