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86 高知論叢 第98号4. ま と め 政策制度について,どの程度までの国民・納税者の理解が必要なのであろうか。すべての国民が国の制度を正確に理解することは不可能に近い。直接支払制度は日本の現状を的確に反映し....

86 高知論叢 第98号4. ま と め 政策制度について,どの程度までの国民・納税者の理解が必要なのであろうか。すべての国民が国の制度を正確に理解することは不可能に近い。直接支払制度は日本の現状を的確に反映した優れた制度であり,国民的な理解をこれまで以上に進める必要はないとの見方もある。 しかし,直接支払において現状以上の理解や合意形成を進める必要がないわけではない。その理由の第1 は,すでに指摘したとおり日本の現行制度が集落機能の維持に配慮し,その機能を足場に政策を進めようとしているため,制度が過度に複雑化している点である。現在の制度は,専門家や研究者がみても即座に理解するのは難しい。また,集落や地域のコミュニティを構成する多数の経済主体をひとつの組織として機能するように誘導する(例えば,麦大豆(等)直接支払における法人化の要件や農地水環境保全支払における一層目のコミュニティの形成要件など)ため,経済主体の行動を政府が制約する形になっている。この制約はこれまで集落などの活性化を促す仕組みとして機能してきたものの,今後,農村地域の構成員の高齢化が着実に進み,集落機能が維持できない集落が増加する中では,従来どおりの働きを期待することはむずかしくなると予測される。集落機能への過度の依存を改め制度を簡素化すべきであろう。 第2 の理由は,歴史的な経路に関わる。すでに述べたように,直接支払制度に先行する政策手段は価格支持制度である。これは一般に経済発展を遂げつつある国が採用してきた農業保護の手段である。自然や技術的な制約から工業の発展に追いつけない農業部門に労働者が滞留し,農工間の所得格差や農村の疲弊が社会問題化する時期に,そのギャップを埋めるべく,国境措置や市場介入を通じて農産物価格の水準を引き上げてきたのである。農産物価格の引き上げは,所得格差の縮小や農村社会の安定を実現し,国家の安定した発展を基礎づけてきた。 農業経済学の標準的なテキストでは,この時期を農業調整問題段階と呼ぶ18。18 例えば,速水佑次郎(1986)『農業経済論』岩波書店。