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戦争論の系譜(2) 7総帥権の領域であり,陸海軍大臣人事を盾に軍が倒閣させた。それを支えたものは天皇が統帥権を有し,統治権を総攬するという天皇親裁の建前であった。日本の憲法は,天皇が統治権を総攬し,統帥....

戦争論の系譜(2) 7総帥権の領域であり,陸海軍大臣人事を盾に軍が倒閣させた。それを支えたものは天皇が統帥権を有し,統治権を総攬するという天皇親裁の建前であった。日本の憲法は,天皇が統治権を総攬し,統帥権を有すると同時に,憲法の条規により統治すると明記され,制限君主制と絶対君主制の融合した曖昧な条項であった。主権という表現は一切使わず統治権の総攬とした。これは国家主権という概念は西洋の概念であり,日本にはなじまないとする論争が決着したもので,井上毅は主権という言葉は国民主権に対立する言葉としてこれを否定した。「憲法の大主義は彼此を斟酌すへからす。欧洲の所謂憲法とは民撰議院と必ず相因りて成立するものなり。民撰議院なく是れ憲法なき也。憲法の節目多し。而して其の大主義は,曰君権を限る,曰立法の権を人民に分つ,曰行政宰相の責任を定む。」8 井上毅は「憲法逐條意見」(明治20年)の中で,憲法第四条について「天皇ハ国ノ元首ニシテ統治権ヲ総攬シ此ノ憲法ノ条規ニ依リ之ヲ行フ」とする案を示した。原案は「第四條 天皇ハ国ノ元首ニシテ主権ニ属スル諸般ノ権理ヲ総攬シ」について井上は以下のように述べている。「主権ニ属スル諸般ノ権理卜云ヘル成語ハ洋語ニハ熟シテ訳語ニハ熟セズ 且近来ノ学者ニ主権ナル字ハ交際法ノ語ニシテ之ヲ憲法学ニ用ヒタルハ仏国ニ於テ主権在人民卜謂ヘル謬見ニ起因シ 終ニ又主権在君主卜謂へル何等ノ意義モナキ学説上ノ熟字ヲ慣成シタルナリト謂へル者アリ・・国ノ大権トカ万揆ノ大権トカ諸般ノ大権トカ我カ国民ノ普通ノ感覚ニ容易ニ了解セシムヘキ熟字ヲ用ヒテハ如何」9 ロエスレル,モッセら外国人法学者達は,井上らの説を支持した。10穂績八束は統治権の主体について以下のように述べた。「統治権ノ主体トハ8 井上毅より伊藤博文宛書簡明治9 年『伊藤博文関係文書一』塙書房昭和48年1月306頁9『 井上毅伝史料編第一』「井上毅憲法逐條意見」同編纂委員会昭和41年11月569頁~570頁10 ロエスレルは井上の意見は真理であると同意した。モッセは王権についての井上からの質問に以下のように答えた。「何レノ憲法ニ於テモ,国王ハ侵スヘカラストノ明文ヲ掲クルハ皆同シ。或ル憲法ニ於テハ,之ニ加フルニ神聖ナルノ語ヲ以テス。然レトモ,此語ハ法律上ノ効力ヲ有セズ,又,皇帝ノ至尊ナルコトハ,宗教ノ主義卜共ニ,日本国民ノ思想ニ銘刻シアルカ故ニ皇帝卜国民トノ間ニ於ケル,此純然タル徳義上ノ関係ヲ憲法ニ掲クへキ政事上ノ必要ナキノミナラズ,予ハ之ヲ掲クルハ却テ弊害ヲ生スヘシト信ズ。何トナレハ,此レカ為,国民古来ノ主義ヲ破り,又,国王ノ至尊ハ憲法ニ依テ始テ生スルヤノ思想ヲ起サシムルノ恐レアレハナリ」「モッセ氏答議 王権部」明治20年2 月22日『近代日本法制史史料集第一』所収 昭和54年3 月 44頁