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90 高知論叢 第98号奥行きを加えつつ,コモンズ論的な研究が盛んになってきている2。2010年度日本法社会学会学術大会で「コモンズ論の射程拡大と法社会学の課題」が企画関連ミニシンポジウムとして開催されるなど,....

90 高知論叢 第98号奥行きを加えつつ,コモンズ論的な研究が盛んになってきている2。2010年度日本法社会学会学術大会で「コモンズ論の射程拡大と法社会学の課題」が企画関連ミニシンポジウムとして開催されるなど,法学の分野においてもコモンズという言葉が一般化してきている3。 コモンズ論的な研究のフィールドは多岐にわたるが,海洋もその対象のひとつである。海の管理についても,コモンズ論的な研究がなされている。特に,海釣りやスキューバダイビングといったマリンレジャー,マリンスポーツを愛好する市民が,それまでは漁業者がほぼ独占的に利用していた海域に入り,海の利用の競合が起こっている部分では,共通の資源である海の管理というコモンズ的課題が見いだされる。また,島嶼や沿岸地域の開発に対抗して,開発対象とされる地域の自然資源や景観等にコモンズとしての価値を再発見し,その価値を守ろうとする動きなども見られる。 本稿では,コモンズ的な議論の対象の一つである沿岸海域の利用と管理について,高知県の現状をもとに考える。マリンレジャーとの軋轢にしても,開発問題にしても,海の利用と管理に関する問題は,いずれにせよ,これまで海を中心的に利用し,管理の主たる担い手となってきた漁業者と,利用と管理の根拠となってきた漁業権を抜きにして語ることはできない。本稿では,海の利用と管理について,過剰利用と過少利用に分けて考える。まず過剰利用となることが多い競合関係について若干の整理と検討を行い,次に高知県の漁業および漁業権の現状とその内実の一部を明らかにし,過少利用状態をもたらす権利内実の空洞化について検討する。その上で,漁業権の性質に着目し,権利の外観と内実のずれを修正する方策について,若干の検討を試みることとする。2 鈴木龍也・富野暉一郎編著『コモンズ論再考』(2006年 晃洋書房)に収められた論考, 高村学人「コモンズ研究のための法概念の再定位」(『社会科学研究』60巻5・6 号81-116頁 2009年)等参照。3 2010年5 月7 日- 9 日,同志社大学において開催された。企画関連ミニシンポジウムはほかに「自治基本条例と自治体政策法務」,全体シンポジウムは「地域社会の法社会学の意義と方法」であった。このほか,コモンズあるいは漁業権関連のミニシンポジウムとして「下北地方における<法と共同性>」も開催された。