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漁業権による沿岸海域の管理可能性93 こうしたダイビングスポット利用をめぐるダイビング事業者や顧客と漁業者との競合関係から生じる軋轢について,訴訟にまで至ったケースとして著名なのが,大瀬崎ダイビングスポ....

漁業権による沿岸海域の管理可能性93 こうしたダイビングスポット利用をめぐるダイビング事業者や顧客と漁業者との競合関係から生じる軋轢について,訴訟にまで至ったケースとして著名なのが,大瀬崎ダイビングスポット訴訟である8。訴訟の経緯や判決の詳細については,池田恒男氏の詳細かつ優れた評釈があるのでそれを参照して頂くこととして,大瀬崎では柏島のようなダイビング事業者と漁業者の競合関係をどのように秩序づけているのか,大瀬崎の海の管理のあり方について,ここで若干みておきたい。 静岡県沼津市大瀬崎地区では,1980年代からダイビング客が急速に増加し,漁業者とのトラブルが多くなったため,1985年9 月に大瀬崎を利用するダイビング業者13名が大瀬崎潜水利用者会(後に「大瀬崎潜水協会」に改名)を組織し,沼津市水産課と地元自治会代表の立会いの下に,「ダイビングスポット」海域を指定し,それ以外の海域での潜水を禁止するとともに,資源保護および漁業妨害の防止のために各海域での潜水時間を制限することなどを内容とする協定を結んだ。協定は毎年更新され,協定に基づきダイビングスポットを利用するダイバーは,漁協が交付する「潜水整理券」を購入して,ダイビングを行うこととなっていた。購入費は1 日1 人あたり340円であり,消費税相当分10円除く330円分は,潜水協会の運営費交付30円,地元漁業会(合併前の旧漁協の構成員で構成される地元入会集団)への整理券販売委託費90円,定置網設置業者への漁業補償,ダイビングスポットを示すブイの設置費,安全対策費および遭難対策費120円,漁業振興費90円として,それぞれ配分されていた。訴訟はこの潜水整理券を購入してダイビングスポットを利用していた横浜市の業者が原告となり,整理券の販売による潜水漁の徴収は詐欺による不法行為だとして漁協8 一審は静岡地沼津支判平成7 年9 月22日,控訴審は東京高判平成8 年10月28日(判タ925号264頁),最高裁判決は平成12年4 月21日第2 小法廷,差戻控訴審は東京高判平成12年11月30日。なお,最高裁判決および差戻控訴審判決は池田恒男「共同漁業権を有する漁業共同組合が漁業権設定海域で潜水を楽しむダイバーから徴収する潜水料の法的根拠の有無」(『東京都立大学法学会雑誌』42-1 393-407頁,42-2 251-264頁及び43-2 503-515頁 2001,2002,2003年)を参照。また,控訴審判決につき池田恒男「共同漁業権を有する漁業共同組合が漁業権設定海域でダイビングするダイバーから半強制的に徴収する潜水料の法的根拠の有無」(『判例タイムズ』940 1997年 72-80頁)も参照。なお,両評釈とも佐竹五六・池田恒男他著『ローカルルールの研究』(まな出版企画 2006年)に所収。