098号

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94 高知論叢 第98号を相手どって起こしたものであり, 1 審は原告敗訴, 2 審は原告一部勝訴(不当利得に基づく請求を認容)となり,最高裁判決は破棄差戻しとなって,最終的に差戻し控訴審で原告が敗訴し,確定し....

94 高知論叢 第98号を相手どって起こしたものであり, 1 審は原告敗訴, 2 審は原告一部勝訴(不当利得に基づく請求を認容)となり,最高裁判決は破棄差戻しとなって,最終的に差戻し控訴審で原告が敗訴し,確定したものである。上告審(最高裁)で漁協側は,潜水整理券による料金の徴収は,漁業権侵害の受忍料である,または「一村専用漁場」の慣習に基づく「地先権」によるものであると主張したが,最高裁は漁協側の主張について言及せず,不当利得の成立にかかる漁協とダイビング業者の間の合意の有無が問題であり,それについて審理を尽くさせるためとして破棄差戻しとの判断を下した。漁協側が主張した地先権と漁業権の異同,あるいは重複の度合いについて文献のみから判断することはできないが,少なくとも, 現行の漁業法上の漁業権だけではなく, その淵源であり現在も漁業権の背後(というべきか)に存続する「地先権」もあわせた形での地元漁業者の「我々の海」認識に基づく海の管理者としての自覚が,大瀬崎において潜水整理券に基づく料金徴収とその配分を可能にし,ダイビング事業者も含めた利用者全体の海の利用秩序を形成しているものと見ることができる9。漁業権ないし地先権を根拠として,関係者が合意の上で協定を作り出すことで,ローカルなルールよる地域の秩序形成を可能にし得るということを,大瀬崎の問題は示してくれている。 では,柏島はどうか。柏島のように,沿岸域の海の利用について,利用の競合が起こる場合,地域における合意形成を得ていくことが重要になる。ダイビングスポット利用と漁業者の利害が競合する場合には,区域的には限られているが原則としてはオープンアクセスな海を, 異なる目的をもった複数の関係者が利用することになり, どうしても利用の過剰がおこってしまう。柏島では,ダイビング事業者団体の離合集散が続いたことや漁協の合併10等によって9 「地先権」あるいは「我々の海」認識に関しては浜本幸生監修・著『海の『守り人』論―徹底検証・漁業権と地先権』(まな出版企画 1996年)を参照。また,前掲注8 の評釈内で池田氏は,漁業権と地先権および潜水協会の協定について,「一村専用漁場慣習ないし地先権と漁業法上の漁業権は,地元の総意としての協定の存在とその実施に媒介されて地域共同秩序=地域的公序として未分化に被告である漁協に一体化され,アウトサイダーである原告・X の請求に対して合力してぶつかり合った」とされている。10 柏島漁業協同組合は2001年に大月町および宿毛市の16の漁協が合併して誕生した「すくも湾漁業協同組合」に参加し,現在はすくも湾漁協柏島支所となっている。