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86 高知論叢 第99号多くの反対意見が寄せられ,結果として公開草案では権利(資産),義務(負債)を公正価値によって測定するのではなく,対価を発生確率で加重平均した見積額によって測定し,義務ごとに配分する....

86 高知論叢 第99号多くの反対意見が寄せられ,結果として公開草案では権利(資産),義務(負債)を公正価値によって測定するのではなく,対価を発生確率で加重平均した見積額によって測定し,義務ごとに配分する方法がとられることとなった。 IASB では,会計基準の新規作成,変更において社会的な合意を得るために,デュープロセスと呼ばれる手続きをとっている。デュープロセスはFASBの会計基準設定においても行われているが,その違いとしてIASB のデュープロセスは1 国内における合意形成をはかるだけでなく,国際的な合意形成が必要となることである。このためIASBにおける基準作成は,「世界基準であるIFRSは,常に政治的影響を受ける可能性を持っている(したがって,理論的な基準作りがいつも可能というわけにはいかない)95」というようにIFRSs の影響が拡大するにつれてその合意形成は困難となっている。こうした状況の中で,資産負債アプローチによる収益認識基準への合意が概ね得らたことは,現行の収益認識基準では現状に十分に対応できないという社会的な考えの表れであるともとれる。 収益認識における資産負債アプローチへの論理的な転換は,論理の一貫性を重視するIASB の姿勢を表すものであると同時に,現在の多様な実務において収益の金額を直接的に測定することが困難であり,直接的に測定した金額では投資家などの情報利用者にとって有用な数値とはなり得ないという表明でもある。しかし, プロジェクトの過程で公正価値測定を廃したことからもわかるようにIASB における論理の一貫性は絶対的なものではない。この帰結は,今後のIASB の会計基準作成において基準間における矛盾を抱える可能性を残し,論理的な説明による合意形成を困難にするかもしれない。また,間接的に測定した金額(資産負債アプローチ)が,直接的に測定した金額(収益費用アプローチ)よりも有用な数値を提供するかどうかについても,公開草案が会計基準として公表され,実務で用いられるまで明らかとならない。 資産負債アプローチへの転換の重点は,「実現・稼得過程アプローチの放棄の理由は,当該アプローチが利益管理に利用されやすいという実務上・制度上の問題と,実現・稼得過程アプローチが資産・負債等の他の諸概念との間に混乱を招いているという概念上の問題ゆえであった96」というが,とくに利益への影響にあると考えられる。公開草案で提案されている収益認識基準は日本の