100号

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10 高知論叢 第100号所知(シラシシ)は過去形である。『古事記』では,天皇による統治に関して,治(シロシメス),故所知(シラシシ),斯羅須(シラス)の三種類の漢字がある。天皇が政を行った場所の後段では必....

10 高知論叢 第100号所知(シラシシ)は過去形である。『古事記』では,天皇による統治に関して,治(シロシメス),故所知(シラシシ),斯羅須(シラス)の三種類の漢字がある。天皇が政を行った場所の後段では必ず治(シラシメス)が用いられる。管見では本居宣長による,この用例の相違に関する言及はない。天皇の統治に関して最も多く用いられている漢語は治(シラシメス)である。縄文語の音声では,シロシとシラスは同じ範疇に入るであろう。アメノシタシロシメシキの天下(アメノシタ)は現世のクニを指す。アメノシタとは高天原から見た目線である。本居宣長は国家の漢字について次のように,訓読みと解説を加えている。「国家はあめのしたと訓べし,書記にも多く然訓り21」また,「公ノ字は,つねに公民と書きならへる,公ノ字を取れるのみなり,オホヤケとは訓べからず22」公民はアヲヒトクサ,オオミタカラと訓むと述べており23,この訓字が明治以降,井上毅らによって流布された。明治以降の国民は,植物たる蒼あおいとくさ生,物である於ヲ保ヲ无ム多タ加カ良ラと御上から呼ばれることを嬉々として喜ぶような国民であった。近代日本には国民国家という概念は存在しなかった。明治天皇は次のような和歌を詠んだ。「あしはらの国とまさむとおもふにも青人草ぞたからなりける」『大日本帝国憲法義解』において引用されたヤマトタケルノミコトの大八島國知ロシメスとは『古事記伝27巻』における景行天皇巻にある24。本居宣長の注によれば,天皇即位を所知(シロシメス)という所を所知大八島(オホヤシマシロシメス)と日本の国土を附けたことについて,後世において「優きわざりなん」故にこの呼称を附けたと述べている。井上毅はウシハクを大国主命の末裔の一族による中国地方政権の私的支配権21 『古事記伝二十三之巻』第三巻崇神1208頁22 同上書1193頁23 『日本書紀巻第二』には「顕うつ見しき蒼あおひとくさ生(生きているあおひとくさ)は木の花の如に,しばらくに遷転ひて衰去へなんといふ。これ人の命もろきことのもとなりといふ」とある。『古事記』にも「宇都志伎青人草(ウツシキアオヒトクサ)とある。「於葦原中國所有宇都志伎青人草之落苦瀬而伊邪那岐」本居宣長「文武天皇詔解」に引用『古事記伝』第五巻42頁,『倭名類聚抄』にも「日本紀に云う,人民は,和名を比ヒ止ト久ク佐サ,於ヲ保ヲ无ム多タ加カ良ラ」とある。「民を以て草に譬え,なほ蒼あおいとくさ生と之れ稱ふがごとし」24 『古事記伝巻二十七』第三巻景行天皇巻1380頁