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158 高知論叢 第100号さく表現したのは,このように多様な差異や格差があるからである。 国際システムは,世界政府が存在しないので,国民システム間の競争と対立関係にある分裂システムでもある。このため世界各....

158 高知論叢 第100号さく表現したのは,このように多様な差異や格差があるからである。 国際システムは,世界政府が存在しないので,国民システム間の競争と対立関係にある分裂システムでもある。このため世界各国は今でも軍事費を拡充しており,世界の軍事費は2007年と比べて2008年には1兆5478億ドルと約10.2%増加している。その内,アメリカが約7000億ドルと世界の軍事費の半分近くを占めている。ロシアや中国も装備の近代化や軍備増強に動いている。 地球温暖化の影響もあって世界中で食料,水の争奪戦が激しくなっており,中国や新興国,穀物メジャーなどが途上国の農地を囲い込むなどの「新植民地主義」と批判される行動に走っている。メコン川やナイル川などでは上流の国がダムを建設して下流の国が水不足になるという,国際河川での水紛争も頻発するようになった。さらに希少資源や資源開発をめぐっての国境紛争も強まっている。民族,宗教(宗派),言語の相異から,今でも世界中でテロや軍事行動をふくむ紛争が多発している。世界金融危機以降,自国の輸出を有利にするための自国通貨安競争という経済戦争も起こった。2009年の気候変動枠組み条約第15回締約国会議(COP15)では,先進国と途上国の対立が強まり,温室効果ガスの排出削減について具体的な目標は定まらなかった。 国際政治学者によれば,近代的な国際システムの歴史には,有力な三つの互いに競合しあう伝統的な思考があるという。24) その一つは,国際政治を戦争状態と考える「ホッブズ的もしくは現実主義的伝統」である。個々の国家は常に敵対的で,その争いは勝つか負けるか,「利益」を独占するか失うかのゼロ・サムゲームである。国家は「道徳や法の真空状態」のなかにあって,自身の利害(国益)だけで行動する。 二つめが,これと対極に立つもので,国際政治の下で潜在的な「人類共同体」が作用していると考えるところの「カント的もしくは普遍主義的伝統」である。この人類共同体の内部においては,すべての人々の「利益」は同一である。ここでは絶対的な普遍的道徳と法が存在し,内部的差異を認めない。共存と協力は国家相互のものではなくむしろ国家は排除される。 三つめは,ホッブズ的伝統とカント的伝統の中間に位置するものであり,「国際社会」という観念を基礎におくところの「グロティウス的もしくは国際主義