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象徴天皇と神話15倭根子は従来単なる天皇の尊称と見なされてきた。折口信夫は「大倭根子天皇と云ふ枕詞とも言ふべき成語は,単に,讃名ではなかつた……ある地方の,神人の最高位に居る者の意味であつた。大和の神人....

象徴天皇と神話15倭根子は従来単なる天皇の尊称と見なされてきた。折口信夫は「大倭根子天皇と云ふ枕詞とも言ふべき成語は,単に,讃名ではなかつた……ある地方の,神人の最高位に居る者の意味であつた。大和の神人の,最高の人となるが故に,天子の稜威は生じるのであつた37。」「外蕃に対しての関心を持たない時代の詔詞は,大倭根子天皇なる御資格を以て,大儀礼を宣せられたのだ。其で大倭根子……天皇と謂つた御諡を持たれた御方々がおありになる訣だ。詔詞の始めに据ゑた御資格が,御生涯を掩ふ御称号となつたのである38。」と述べた。『日本書紀』には「天地混れ成る時に始めて神人有す39」のであって,現御神は神々を指し,大八嶋は人間界,根子は黄泉の国,常世の国の神々を指した。後世の人は,現御神を天皇が人ながらにして神である称号と見なしたが,現あきつみかみ御神は上代においては,必ずしも天皇が神であることを直接表現する言葉ではなく40,天武以降の新しい天皇即神思想であった41。天皇の称号は美称をこめた諡号と賛美を込めない追号がある。諡号には国風と漢風がある。いずれも天皇崩御後の称号である。根子は,大倭に続く天皇の枕詞であるが,語源は,根の国に発する神話に登場する異界である。『日本書紀42』には遠き根国,下方の底,母の国,大地の意味に使われている。根の国は黄泉の国に通じるが,豊穣や生命の源であり43,神の世界でもある。『記紀』では根堅州國,底根國,根国とある。根國の初出は『日本書紀巻第1』イザナギの子大日霎尊と月弓尊は麗しいので天あめのした地を照した。スサノヲは性格を損なったので下して根國を治しめた44。根國を治じた神はスサノヲであった。『古事記』ではスサノオが根の国を母の国と呼び,大国主神が王権の根拠となる刀を根の国から持ち帰った。37 折口信夫「高御座」『国学院雑誌』第34巻第3号昭和3年3月38 折口信夫「日本文学の発生 その基礎論」『岩波講座日本文学第十一輯』昭和7年39 『日本書紀巻第一』岩波書店18頁40 佐藤雉鳴「『人間宣言』と謂う誤り 新『現御神』考」平成20年11月41 神野志隆光「天皇神格化表現をめぐって」『柿本人麻呂研究』1992年塙書房42 『日本書紀巻第一』根国の用例は11箇所ある。岩波書店338頁43 柳田國男は根の国とは生命や富の根源の地(根の国)という意味であったとしている。44 『日本書紀巻第一』岩波書店36頁