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16 高知論叢 第100号根の国,黄泉の国は死者の世界とすると地獄と同様になるとして橘守部は本居宣長を批判した45。根国は常世の国とも同義である。常世の国は不老不死の世界,穀霊の源の信仰に通じる。根子とは異界....

16 高知論叢 第100号根の国,黄泉の国は死者の世界とすると地獄と同様になるとして橘守部は本居宣長を批判した45。根国は常世の国とも同義である。常世の国は不老不死の世界,穀霊の源の信仰に通じる。根子とは異界と通じる人神として詔に入れられる様になった。橘守部は本居宣長より『記紀』における異界の理解が明解である。橘守部は天,黄泉,幽の三大世界を指摘する。幽は顕の反語で現実世界に見えない世界である。幽はかみと訓じ,根の国,底国でもあるが地獄ではなく,あくまで神の世界である。倭根子なる天皇の賞称は根の国を治ラシメル天皇と読むべきである。倭の幽冥世界を支配する神の子という意味である。従って,「現神八洲御宇倭根子」は,“現神と大八嶋を治らしめる母なる倭の天皇”となる。この解釈によると,天皇は神そのものではなく,現世に降臨した八百万の神々,日本の国土と人民,黄泉の国の神々をシラス存在である。言い換えれば,現世と天上,天下,根国すべての稜い威つ46を司る存在となる。天皇は国家,国民を我が物,私有物として扱わず,あくまで公の視角でシラシメルものであり,これがシラスであると説明され,これが「皇道の根本原則47」であると見なされてきた。シラス,ウシハク,オオミタカラ,八紘一宇など一連の神秘性を帯びた情緒的日本語は,昭和の挙国一致体制の中で,ナショナリズムを高揚させる役割を果たした特別な言語であった。シラシメルと同様に現御神も『古事記』に書かれた敬称に過ぎない言語が,その後昭和の国体を支配するものとなった。45 橘守部『難古事記伝巻四』『橘守部全集第二巻』大正10年8月226頁46 稜い威つは神の霊力の強さ意味する『日本書紀』に頻出する語である。古代人の神秘性を帯びた精神世界を理解するためのキーワードであるが『古事記』にはない。天保の四大国学者と言われた橘守部は『古事記』より『日本紀』を重視し,威稜を解明する事が国学の王道だとして本居派と論争した。天保を代表する国学者,橘守部は神道の奇跡を古代人の目線で解明した功績は大きい。橘守部著『威稜道別』『威稜言別』に詳しい。47 昭和14年12月11「東亜新秩序答申案要旨」「皇道的至上命令,『ウシハク』ニ非ズシテ『シラス』コトヲ以テ本義トスルコトハ我ガ皇道ノ根本原則,支那王道ノ理想,八紘一宇」昭和14年12月11「東亜新秩序答申案要旨」「皇道的至上命令,『ウシハク』ニ非ズシテ『シラス』コトヲ以テ本義トスルコトハ我ガ皇道ノ根本原則,支那王道ノ理想,八紘一宇」昭和15年2月2日の斎藤隆夫の第75回帝国議会における本会議での日中紛争処理に関する演説において引用された。