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象徴天皇と神話172.天皇とシラス天皇が日本の象徴であるとは,昭和憲法に明記されて初めて一般に認知されたが,神武建国神話以来の日本の国体は,自ら政務・軍務に不答責な象徴天皇であった。万機親裁が意味するこ....

象徴天皇と神話172.天皇とシラス天皇が日本の象徴であるとは,昭和憲法に明記されて初めて一般に認知されたが,神武建国神話以来の日本の国体は,自ら政務・軍務に不答責な象徴天皇であった。万機親裁が意味することは,天皇自ら政務を執り行うのではなく,輔弼に委任して政を行うことであった。そのことは『記紀』をはじめとする日本の歴史書や文武以降の詔からも読みとることができる。明治憲法第4条,天皇が統治権を総攬するとは,万機にわたって天皇自らが政務・軍務を執り行う,実質的な親裁を意味するのではなく,天皇はシラシメルものであった。シラシメル,シラスというヤマト言葉は国を知る,敷く,すなわち天皇は政を承知し掌握するが政務,軍務の責任は輔弼がとる,従って天皇は不答責である,とは明治憲法を策定した井上毅,伊藤博文らに共通する憲法理解であった。従って,明治憲法体制時代は天皇主権であり,昭和憲法体制だけが象徴天皇制とする理解は厳密に言えば誤りである。明治天皇は象徴であり憲法に基づいて統治する事が,明治憲法設計者達による,憲法第1条,第3条,第4条の理解であったが,憲法には象徴なる言葉はあえて明記されなかった。井上毅やモッセなど法律顧問は憲法草案の議論では君主をsymbol としたが,symbol の訳語は憲法には入れなかった。しかし,伊藤博文『憲法資料』には象徴と翻訳されている。シラスこそシンボルと同義であったが,日本にはシラス,象徴に代わる適当な言葉がなく,「万世一系ノ天皇之ヲを統治ス」とされた。憲法には象徴という語の代りに,井上毅らによって神話の精神が注入され,その意味が誤解,歪曲され,日本の国体に関する情緒的理解がメディアと教育を通じて拡大した。明治維新は古代の王政復古,天皇による万機親裁を建前としていた。しかし,万機親裁が意味するところは明治維新以降,徐々に変化した。憲法制定以降においても,大本営設置時代(日清,日露,日中戦争以降)と戒厳令施行期においては,天皇は象徴の存在以上の時期があった。特に明治天皇は明治大帝と称されてその言動が伝説となった。万機親裁の意味が多様に理解されたと同様に,象徴天皇の意味する所も多様