100号 page 203/242
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概要:
森 直人著『ヒュームにおける正義と統治文明社会の両義性』を読んで201勢力均衡には,自国の安全を確保するための対外政策上の格率と理解される。勢力均衡論は肯定的に語られるが,それが全体として調和的な結果を....
森 直人著『ヒュームにおける正義と統治文明社会の両義性』を読んで201勢力均衡には,自国の安全を確保するための対外政策上の格率と理解される。勢力均衡論は肯定的に語られるが,それが全体として調和的な結果を生む保証は存在しない。勢力均衡概念はこうした国際的な秩序形成と平和創出といった調和的側面だけでなく,それとは相反する世界君主政の危険に対する軍事的対抗政策という側面をもつという認識から,ヒュームの勢力均衡論が見直されることになる。これに関しては,海外の 主としてF. ボスバッハ,S. ピンカス,ロバートスンの 研究によりつつ,ヒュームの勢力均衡論が改めて検討される。その主張点は,第一に,彼の勢力均衡論は「ほぼ例外なく」軍事政策との関連で語られており,平和創出や秩序形成論ではないこと。第二に,それは為政者の行動準則として示されていて,勢力均衡が自然に達成されるというメカニズムの意味を持たないと明言される。 古代ギリシアやローマ,そして近代ヨーロッパにおいて,それを実際に機能する一般的原理と見ることは困難だとヒュームは見なしている。 このように,ヒュームの勢力均衡概念には均衡が自然に実現され,平和が生れるといった含意は見られないことが改めて強調される。ヒュームのリアリスティックな対外政策論には,第五章で指摘された,正義と統治の衝突と統治優先のロジックが再び現れているのであり,それは世界君主政国家に対する対抗政策を主張する議論であることが強調される。 こうしたヒュームのリアリスティックな国際関係の認識は,同様に彼の公債論にも読み取ることができるのであり,そこでも政治社会の対外的な安全に関する危機が論じられ,「国内においてさえ統治による正義の規則の部分的侵犯を容認する」(p. 189)として,ヒュームの文明社会認識のもう一つの両義性が明らかにされる。 第八章「公債累増 経済論における統治の論理とその帰結 」においては,これまで述べられた議論を前提に,ヒュームの商業発展論が改めて見直される。ヒュームの商業発展論の自然的・調和的・肯定的展開とは相いれない議論を最もよく示すものとして,公債累増が取上げられる。 ヒュームの公債論の悲観的な論調に着目したポーコックとホントの研究を導入部としつつ,商業・戦争・公債の連関と,そこに内在する両義性が明らかに