100号 page 204/242
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202 高知論叢 第100号される。 著者はこれを,第一に,ヒュームの経済諸論説のもつ「軍事的・財政的含意」を示し,その含意のうちに公債論を位置づける。第二に,彼の経済論に即して商業社会が公債の累増を生み出....
202 高知論叢 第100号される。 著者はこれを,第一に,ヒュームの経済諸論説のもつ「軍事的・財政的含意」を示し,その含意のうちに公債論を位置づける。第二に,彼の経済論に即して商業社会が公債の累増を生み出す基本的連関を探究し,第三に,ブリテンの公債累増が無際限なものとなる要因に関するヒュームの理解が取上げられ,最後に,公債累増のもたらす諸々の危機が検討される。とくに「公信用の自然死」というヒュームの提言のうちに,こうした状況における正義の執行よりも政治社会の安定の優先という,統治優先の思考が示される(p. 212)。 とりわけ,商業発展が公債所有の確実性を高め,その累増を押し進めるということ,そして法の支配という文明社会の前提とブリテンの政体の特質のために,償還や不履行によって公債の累増に歯止めをかけることが出来ないことから,公債は極度に破滅的なものにまで進み,公債の利払いのための重税が商業社会発展の根幹をなすインダストリを減退させ,土地所有者の経済的基盤を掘り崩し,さらに資金不足による軍事的な危機にも至るというヒュームの議論が検討される。 こうした議論に基づき,商業発展を全体としては望ましいものと描出しながらも,この発展過程において切り離しえない致命的な危険として公債累増過程をヒュームが見ていたことが示される。 さらに著者は,「正義と統治の衝突と後者の優先のロジック」の観点から出てくるヒューム社会認識における二元的思考のもつ特色を全体としてどう捉えることが出来るかを,改めて検討する終章「ヒュームの二元的社会認識とその含意」を配している。したがってこの終章は,以上に述べられてきた諸論点をヒュームの二元的社会認識として総括し,彼の社会認識を両義的認識として把握することの意義が再確認される。 そこでの最も中心をなす主張点は,従来の諸研究に一般にみられた「自然的・調和的・肯定的な社会発展といった思考とは相いれない異質な思考」(p. 216)が見られ,彼の諸論説でのそうした見解が両義性を含むものとして捉えられることを確認しつつ,それを全体としてヒュームの社会認識の最大の特徴とみなすことが最終的に確認されている。