100号 page 205/242
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森 直人著『ヒュームにおける正義と統治文明社会の両義性』を読んで203 ポーコックやホントの研究にみられるヒュームの両義性をめぐる議論を支持しつつも,その両義性をさらに一貫してえぐり出し,そこにこそヒュ....
森 直人著『ヒュームにおける正義と統治文明社会の両義性』を読んで203 ポーコックやホントの研究にみられるヒュームの両義性をめぐる議論を支持しつつも,その両義性をさらに一貫してえぐり出し,そこにこそヒュームの両義性のもつ意義が見られるべきであることが再び強調される。 著者は「本書の試みは,人間本性の弱さと人間社会の不安定性に由来する正義と統治の相互依存と衝突の関係としてヒュームの両義性を描き出すことにあった」(p. 221)と述べており,今やそのねらいはここに一層明らかにされたと言える。 確かにヒュームは,人間本性によって正義と商業,知識と人間性が発展し,法の支配と政治の安定が自然に実現されるという調和的な発展を描き出している。著者もこれを否定してはいない。しかし, これにとどまらず, ヒュームは人間本性そのものの弱点に由来する不確実と危険が, 統治権力によって秩序化されることではじめて発展が実現されるのであり,「この意味でヒュームの描く文明社会はそれ自体のうちに抜き難い両義性を持っているのである」(p. 225)と締めくくられている。Ⅳ 本書の論理展開をみると容易に気付くように,議論は第一部と第二部に分けられ,各章各節の段階で手際よく整理・要約され,また内外の先行ヒューム研究の位置づけも余り無理なく行われていると思われる。 本書には数々の優れた論点がみられるが,その特色ある第一のメリットは,ヒュームにおける「統治概念」の詳細な分析とその重要性に関する認識である。そして第二のメリットは,とくにヒュームにおける対外政策,軍事政策,財政政策との関連の分析であろう。 とりわけ後者の点では,これまで長くかすみがかかったように,不確かな見通ししかもち得ず,この面での研究の遅れが痛感されていた。そこに海外における研究の深化がみられ,これを受けて本書の著者は改めてヒュームの勢力均衡と公債論の分析を大きく前に進めることとなった。こうした統治概念の新たな把握と,それに基づく対外政策,財政政策等の再検討は,本書の大きな収穫