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象徴天皇と神話19ては国家予算の最も大きな金額は朝廷の予算であった。明治初年において,軍事費を朝廷の予算から拠出する案さえでた。君主が軍事費を拠出すると言う事は世界に例がないとして,これは実現しなかった....

象徴天皇と神話19ては国家予算の最も大きな金額は朝廷の予算であった。明治初年において,軍事費を朝廷の予算から拠出する案さえでた。君主が軍事費を拠出すると言う事は世界に例がないとして,これは実現しなかったものの,実態としての朝廷は単にシラシメル象徴的な存在ではなく,日本最大の資産保有者であった。ウシハクとしての朝廷の実態は,シラシメル天皇としての幻想の前では知られる事がなかった。古来から大八嶋に住む人々は,ヤマト言葉による情緒によって右脳が支配される事が多く,明治以降のシラスという言語の亡霊が浸透した。本居宣長著『古事記伝』は『古事記』研究の集大成であった。『古事記』に書かれたシラスもウシハクは神々の統治の事を意味し,その差異は少しであるとは本居宣長の言葉である。たしかに,『古事記』の中では,シラス,シロシメスは天皇による国家統治の意味にだけ使用されている。そしてシラスの前には通常即位した場所が記された。『古事記』で描かれているシラシメル天皇は高たか天まが原はらの目線に立っていた。一方,ウシハクは主,氏に通じる。ウシハクの主語も神を指したが,天皇より低い山に座す神々を意味した。地上の人間が住む世界である葦あしはらの原中なかつくに国や,幽かみの根の国,黄よ泉みとは異なり,高天原は天上の天あま津つ神かみが住まう場所である。天下をシロシメシシ天皇は高天原に昇ったわけではないが,国津神を統合した。天津神は高天原にいる,または高天原から天降った神の総称であるのに対して国津神は地に現れた神々の総称とされている。高天原から天降り,根の国に渡ったスサノオの子孫である大国主は国津神とされた。倭の国で大八嶋を統一した天皇は,アメノシタの神々と大八嶋,根の国の子なる称号が与えられた。大国主神以外の国津神の多くが変容し,神話が統一される過程で伝承も失われた。シラス,シロシメスの差異は天津神と国津神の相違を厳密に表現したものであった。井上毅はシラクとウシハクを対立概念と見なしたが,これは本居宣長『古事記伝』の意図的な誤読であった。加藤玄智が主張したように,『古事記』の中においてシラスとは天皇の統治をさす単なる慣用句に過ぎなかったが,昭和の国体論争では『古事記』の独善的解釈が進み,シラスはナショナリズムを高揚させる言霊として機能し,国家主義運動の精神的支柱となった。『記紀』にシラスというヤマト言葉が憲法論議に登場したこと自体が,法治国家たるこの国の後進性を意味したが,神話と現実世界を結合し,国民の右脳を刺激