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象徴天皇と神話25is sacred and inviolable”と訳した。英語のInviolable だけならドイツ語の不可侵unverletztlich に相当するが,伊東巳代治はこれにsacred を付け加えた。英和辞典には「holy は神に関係するものと....

象徴天皇と神話25is sacred and inviolable”と訳した。英語のInviolable だけならドイツ語の不可侵unverletztlich に相当するが,伊東巳代治はこれにsacred を付け加えた。英和辞典には「holy は神に関係するものとして特別な意味や力をもち特別な扱いを受けるものに用いる。sacred は特別な扱いを受けて然るべきであるという点に重点があり,その神聖さは時として人為的なものであることがある」とあり,Sacred は神そのものではないが「神的であるべき」とする意味では彼らにとっては考え抜かれた適切な訳語であった。伊東巳代治は不可侵なるという英語をあえてsacred and inviolable として,王権をより神的に翻訳した。この時期におけるプロイセンではすでに神聖不可侵の言葉は王権の絶対性,神秘性を意味せず,国民の財産権,人権と同様に国王も固有の権利が不可侵であるというにすぎない意味しかなかった。この翻訳は伊東巳代治だけの責任ではなく,当時の国学徒の皇統への共通理解であったと思われる。結果的に伊東巳代治の翻訳は日本の王権が絶対王政かの如き印象を世界に発信した。伊藤博文『憲法義解』第三条解説の日本語文と英語訳文は以下の通りである。「第三条 天皇は神聖にして侵すべからず 恭て按するに天地剖判して神聖位を正す(神代紀)。蓋天皇は天縦惟神至聖にして臣民群類の表に在り欽仰すべくして干犯すべからず故に君主は固より法律を敬重せざるべからず而して法律は君主を責問するの力を有せず独不敬を以て其の身体を干涜すべからざるのみならず併せて指斥言議の外に在る者とす」(英訳) “ARTICLE Ⅲ54 The Emperor is sacred and inviolable”“The Sacred Throne was established at the time when the heavens and the earthbecame separated(Kojiki). The Emperor is Heaven-descended,divine and sacred.He is preeminent above all His subjects. He must be reverenced and inviolable.Hehas indeed to pay due resupect to the law,but the law has no power to hold Himaccountable to it. Not only shall there be no irreverence for the Emperor’s person,but also shall He not be made a topic of derogatory comment nor one of discussion.”神聖にして侵すべからずとは天皇を神格化した条項ではなく,君主不答責を54 Ito Miyoji“Constitution of the empire of Japan”Igirisu Horitu gakko 22 year ofmeiji 1889(伊東巳代治訳『憲法義解』,イギリス法律学校,現中央大学,明治22年刊)