100号

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象徴天皇と神話27最終案では第55条 国務各大臣ハ天皇ヲ輔弼シ其ノ責ニ任ス 2. 凡テ法律勅令其ノ他国務ニ関ル詔勅ハ国務大臣ノ副署ヲ要ス,となり,総理大臣の名は排除され,国務大臣の政務国会への責任は明記されな....

象徴天皇と神話27最終案では第55条 国務各大臣ハ天皇ヲ輔弼シ其ノ責ニ任ス 2. 凡テ法律勅令其ノ他国務ニ関ル詔勅ハ国務大臣ノ副署ヲ要ス,となり,総理大臣の名は排除され,国務大臣の政務国会への責任は明記されなかった。すなわち,総理大臣の条項は勅令を以てし,憲法から削除された。また,天皇の大権を侵すとの名目で,大臣は国会に対して責任を負わないとされた。これ以降,国会,国政に関する責任は大臣も君主も問われず,個々の官僚,省庁による無責任国家が成立した。君主は政務に責任を負わず,神聖にして不可侵である,との大原則は,日本の古来からの統治原則に合致していた。(2)井上毅による『古事記』利用歴代天皇の詔,『記紀』『万葉集』におけるシラスという言葉は,弥生,縄文語に派生するヤマト言葉であり,それは詔に頻繁に使用されてきた神々の言葉であった。井上毅は本居宣長『古事記伝』研究の帰結として,日本固有の統治形態シラスは,国土国民を公(おほやけ)の所有物とし,強制力,暴力装置を以て統治する私領ではないと文学的,情緒的に説明したが,シラスは単に征服者の論理に基づく概念であった。一方でウシハクは,征服され帰属した諸勢力としての氏を意味する言葉であった。ウシハクは,現世の豪族を意味し,シラスは神を意味するという『古事記』の神秘性は,明治以降井上毅によって誇張されて流布し,日本のナショナリズムの深層,集合的無意識を形成するまでになった。井上毅は古事記を引用しつつ,『梧陰存稿』において,シラスと対局にある概念として,ウシハグ(ク)を以下の様に説明した。「大国主神には汝がうしはげると宣ひ 御子のためにはしらすと宣ひたるは此の二つの詞の間に雲泥水火の意味の違ふことゝそ覚ユル うしはぐという詞は本居氏の解釈に従へば即ち領すといふことにして欧羅巴人の『オキュパイト』と称へ支那人の冨有奄有ト称へたる意義と全く同じこは一の土豪の所作にして土地人民を我か私産として取入れたる大国主神のしわざを画いたるあるへし正統の皇孫として御國に照し臨み玉ふ大御業はうしはぐにはあらすしてしらすと称へ奉り56」56 井上毅『梧陰存稿』『井上毅伝史料篇第3』昭和44年3月643頁