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28 高知論叢 第100号井上毅は,日本の歴代朝廷の統治は,天皇が領土を私領とするものではなく,国家,人民のために,国家統一をシラスものでり,これと対局にある概念として大国主神の統治は私領とするウシハクとし....

28 高知論叢 第100号井上毅は,日本の歴代朝廷の統治は,天皇が領土を私領とするものではなく,国家,人民のために,国家統一をシラスものでり,これと対局にある概念として大国主神の統治は私領とするウシハクとして『古事記』には区別して用語が使われている。日本の天皇によるシラスは日本の皇室独自の統治理念であり,これに類する言葉は他国にはないとして,これが憲法理解に関する政府の公式見解となった。井上毅によればウシハクという統治概念は,支配者が公私をわきまえず国家を私的に支配するのに対して,シラスは,支配者が国と家を区別し,自らの利益のために統治するのではなく,国民のために統治する,これこそ日本の朝廷の伝統的な理念である,と述べ,その憲法理解を広く普及させた。しかし,井上毅による,シラス,ウシハクの解釈は,『古事記』並びに本居宣長『古事記伝』の一部を誇張した主張が,数十年後にはさらに歪曲され,国体を破滅させる力を持つに至った。憲法制定直後,伊藤博文の名で刊行された『大日本帝国憲法義解』には,憲法第1条「大日本帝国ハ万世一系ノ天皇之ヲ統治ス」の統治の意味はシラスにある,と次のように解説した。「神祖開国以来時ニ盛衰アリト雖,世ニ治乱アリト雖,皇統一系……統治ハ大位ニ居リ大権ヲ統ヘテ国土及臣民ヲ治ムルナリ……神祖ヲ称ヘタテマツリテ治ハツクニシラス御國天皇ト謂ヘリ日本武尊ノ言ニ吾者マキムクノ日代宮ニ座シテ大八島國知ロシメス,オホタラシヒコスシロワケ天皇ノ御子トアリ……文武天皇即位ノ詔ニ天皇カ御子のアレマサム弥継継ニ大八島知ラサム次トノタマヒ又天下ヲ調タマヒ平ケタマヒ公民ヲ恵ミタマヒ撫テタマハムトノタマヘ世々ノ天皇皆此ノ義ヲ以伝國ノ大訓トシタマハサルハナクノ後御オオヤシマヲシロシメススメラミコト大八州天皇ト謂フヲ以テ詔書ノ例式トハナサレタリ所謂『シラス』トハ即チ統治ノ義ニ外ナラス蓋祖宗ノ天職ヲ重ンシ君主ノ徳ハ八州臣民ヲ統治スルニ在テ一人一家ニ享奉スルノ私事ニ非サルコトヲ示サレタリ此レ乃憲法ノ拠テ以其基礎ト為ス所ナリ57」『大日本帝国憲法義解』に示された,ハツクニシラシス天皇,大八島國知ロシメス,ウシハクとシラスに関する井上毅の知識は本57 伊藤博文『大日本帝国憲法義解』明治22年4月24日2~3頁